道化師は桃の香に誘われず
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色に、警戒と焦りを読み取った詠の目が鋭く光る。浮き上がってきた情報を繋げれば、劉備軍の頭脳達が何を狙っているのか看破するのは容易い。
――自らの王が反対するって分かってるから教えない。劉備が反対することといえば……
回る思考は幾多の結果を読み取って。彼女達が何を目指しているか、何を求めているか、逆算すれば自ずと答えは出てくる。
――民の意識操作と思想の浸透。民意の変動が見えない所で侵食し、気付いた時には人民が全て劉璋の敵になる。忠心も忠義も……変化の可能性さえも否定して。益州に劉璋の居場所は、“劉備の庇護という不自由な檻の中”にしか残されない。
朱里と藍々が取った策はたかがそれだけだ。民という弱者を味方に付けたというだけ。
ただし、税を支払うのも、食糧を生産するのも、兵士として徴兵されるのも……全てが民から。
五年、十年と掛ければ間違いなく国を乗っ取れる。広がる称賛はいつしか信仰となり、そして妄信や狂信に変化していくのだから。
劉璋よりも優れた主だと表だって話に上がれば終わり。いくら国の主だと喚こうと、国を形作る民に認められないモノを主と呼べようか。
――南蛮との戦いは火付けの役割。長年益州の悩みの種って噂の南蛮を無力化したとなれば、劉備軍への信頼は爆発的に大きくなる。孫呉のこともそう。劉備軍は他の救援に迎えるほど力を持っていると知れ渡れば、民達は“自分達を守ってくれる明確な力”に期待する。
つまり、通常であれば民の懐柔に必要な長い時を短縮する為に、外部への遠征と南蛮の平定を同時進行で行っていたということ。
軍師達はきっかけが欲しいだけ。民に対して、劉璋よりも相応しい主が居ると明確に示す為のきっかけが。朱に交われば赤くなる……群集心理は、誰かがそっと扇動するだけで何れかの方向を向くのだから。
彼女達の策の根幹は全て民にある。変幻自在とも言えるその力は、桃香という人間を頭に置けば最大限に機能する矛であり盾。朱里と藍々は、桃香本来の力に恐怖を覚えずとも、その力の大きさを読み違えはしなかったのだ。
――確かに劉玄徳という王に一番合ってる策。話さないでいるからこそ、ソレは大きく機能する。なんて平和的で……
細めた目、吐息を吐き出す動作がイヌミミフードを小さく揺らした。
詠が見つめるのは藍々だけ。秋斗を信頼しているから、彼の負担を一番に減らす為に軍師を相手取ることを決めた。
――妄信的な策なんだろう。
は……と僅かなため息を吐き出した。
その策の弱点を詠は知っている。誰有ろう黒き大徳には似たようなことが出来るが故に。
彼は兵士を狂わせる。味方であれば理を説き憧憬と想いを煽って、敵であれば非情残虐の手段を以って従わせ渇望と同調を持たせて狂わせる。
桃香は民を
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