道化師は桃の香に誘われず
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うなの……劉備を大陸の王にしようと壊れて行った秋斗は、この無自覚で無意識……完全な善意で行われる思想侵食の恐ろしさと有用性を知っていた。だからこそ、秋斗は劉備軍でも一番の歯止め役を担いつつ、劉玄徳という大徳が覇王曹孟徳の唯一の敵になれるって、歪んだ信頼を向けられたんだ。
理解出来ないと思考放棄していた。温い軍だと下に見ていた。何処にでもいる普通の女が、子供のような夢を語っているだけだと勘違いしていた。
桃香の力を正しく測れたのは華琳と秋斗だけ。誰もその恐ろしさには気付けない。恐ろしいと他者に思わせないモノだからこそ、気付いたモノが恐怖するに足る。
もう間違わない。桃香への評価を、段違いに引き上げた。頭の良し悪しでは測れない敵であり、不可測の塊として。
詠は思考に深く潜りこむ。
彼は一つの狙いだけでは動かない。
詠に敵の“恐ろしさ”を教える為が一つで、他にも狙いがあるのだ。
それを読み取る為に、此処から先は一寸の違和感も見逃すまいと神経を極限まで尖らせた。
そんな詠に対して。
桃香の様子を見やり、謙虚さでは無い、と秋斗は判断を下し……見立てが間違っていなかった恐怖で震えそうになるのを抑えて、言葉を続けて行く。
「クク……俺は聞いたことをそのまんま言っただけだ。称賛の声は溢れかえってた。街を改革したのは間違いなく劉備軍で、劉備軍の働きは全てお前の評価に繋がる。それが社会ってもんなんだが……劇的な革新を行ったとしてもたかだか半年やそこいらでこの評価はありえない。政治事や経済に関して結果が明確化し目に見えるようになるのは半年じゃ足りないんだからな。
んで、民はお前さんに感謝してる。お前さんだけに。
益州の内部分裂を勝ち切った太守である劉璋を差し置いて、実質劉備軍の雇い主であるこの州の太守を差し置いてそんな評価を受けるってのは……通常の社会じゃあ異常事態なんだよ」
――革命が起こる時ってのは、決まって新しい風が入り込んだ時。お前にその気がなくとも、周りの声ってのは相手を追い込んで行くもんなんだ。民意の反逆に危機感を覚えない政治屋なんざいないから、そいつらに残された選択肢は、諦めるか、裏で何かを進めるかの二択だけ。
口では伝えず。わざわざ現状の説明などこれ以上することは無い。それよりも、彼には確かめたいことがあるのだから。
呆れたようにため息を吐けば、桃香が眉根を寄せた。
不意に彼は、じっと己を見つめる藍々に向け、方頬を上げて嘲笑を送る。
――こいつ……朱里と自分の策を桃香様に知らせてるかどうか確かめやがったッスね。
そういうことかと気付いてももう遅い。桃香自身が否定したということは、彼女達の策は桃香が決定を下したのではないと教えているようなモノだ。
僅かに変わった瞳の
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