道化師は桃の香に誘われず
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に彼がいつでも行ってきた二つの……“命令には絶対遵守”“間違っていると思ったなら殴ってでも止めろ”……有り得ない矛盾が持つ本当の意味を、この場では彼女だけが理解した。
徐晃隊全体に敷く絶対遵守の命は、群体を身体に確立させる起爆剤、身体を動かす動力源、人を狂気に堕とす為の暗示である。
対して、副長以下部隊長――最終的には徐晃隊上位の隊員全て――に対して敷いた反抗優先命令は……自己崩壊を止めるオブサーバー、人の集合群体を繋ぎ止める緩衝材、人を妄信に堕とさぬ為の自浄作用。
――民衆の意思は多数の集合体によって成っている。故に……多数に取り込まれて否定の意見は黙殺される。例え正しいことを言っていようと、多数が異端と批判すればそれは異端として排除される。
嘗て、黒麒麟は桃香のことを、古き時代で民主主義を説く異端だと認識していた。民主主義の根幹にある者は多数決で、弱者を統べる桃香の力は民という圧倒的多数の声。
物量で圧殺すると表現すれば戦の常道に思えるが、内部を染め上げると言い換えれば途端に腐敗を招いたモノ達と同類に見えてしまう。
――絶対遵守の命令に等しい桃香への妄信で染まり切った環境は、秋斗がいつでも懸念していた自浄作用の不在によって暴走すると止まらない。
結果、民が国を滅ぼす。黄巾の乱がまた、この大陸に起きてしまう。
誰も逆らえない状況は独裁と同じだ。民意に支配されているように見えても、たった一人の主の意向が全てを決定するのだから。
大徳という力の、桃香の真の恐ろしさは、誰もが軽んじるからこそ気付かれない。
彼女の力は信じてついて来る人間の多さだ。彼女の恐ろしさは、非力でありながら人を一色に染め上げる思想にして、それを悪だと誰にも断じさせない在り方にこそある。
次に放たれた言葉によって、初めて、詠は桃香本人に恐怖を抱いた。
「そ、そんなことないよ。だって私は何にもしてない。皆が頑張ってくれたから街が良くなったんだよ? 劉璋さんが協力してくれたから此処まで上手く行ってるんだよ?
それに街に行ってもよくドジして笑われるし、仕方ない人だなぁっていっつも言われるもん」
わたわたと手を振って否定を並べる桃香。身振り手振りが伝える必死さは、自身が称賛を受けている事実を本気で知らないと伝えていた。
現に桃香は知らない。民が直接もろ手を上げた称賛を彼女に伝えるはずが無い。親しみやすいが故に対等のように過ごすことを好む彼女の前で、うやうやしくなど出来ようはずがない。
彼女が居ない時にせめて、と口ぐちに褒め称えるのだ。第三者からの話は現実味を与え、現場を見ればまた噂が広がり、街一つくらいは容易く包む。昔から、劉備軍が通ってきた街は今の成都ほどでは無いが似た傾向を辿ってきた。
――そう……そ
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