道化師は桃の香に誘われず
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……白馬の王と伏したる竜を呼び戻せ。俺をお前達の知ってる黒麒麟に戻したいのなら」
聞く者によって意味の変わる言の葉は、星と詠、それぞれに送られる。
詠には……黒麒麟に戻るか否か、今度は詠の助力前提でもう一度確かめる為にと正解を与える。
星には……自分達の仲間に戻したいのなら、劉備軍の全力で諦めさせてみせろと、正しい誤解を与えた。
「その忠告、受け取っておく。終わった後の酒は勿論……あなたのおごりでしょう?」
「……ああ、“店長の店で”」
「なら休暇の申請をしておこう。我らが家は此処から遠いですし」
それだけ聞ければ彼女としてもこれ以上引き止める理由は無い。
後はもう、知恵であろうと武力であろうと、彼を敗北させた上で白蓮の元に引っ張って来るだけなのだから。
最後に、彼の背に向けて彼女は微笑む。歩き出す前に、と。
「ああ、そうだ……。
いってらっしゃい、秋斗殿」
答える事は無いだろう。分かっていても、その言葉を贈りたかった。家だけはいつでも変わらないと伝えたくて。
劉備軍ではなく、彼の帰る家は……たった一つ。
白馬の王の居る場所だけに。
一歩踏み出す秋斗はやはり振り返らずに……寂しそうな声を宙に溶かした。
「はは……敵わねぇなぁ」
“二人の身体”を両脇に侍らせた折、パタリ、と扉が閉まる。静寂がその場に絶対者の如く居座った。
黒の消えた空間は一色に染まらず、それぞれが感じるモノしか残されていない。
数多の色を混ぜ合わせれば黒になることは、誰も知らない方がいい。
空虚に溺れた桃香。
寂寥に支配された愛紗。
否定に意思を固める鈴々。
疑惑に潜り込む藍々。
困惑に苦しむ紫苑。
享楽に期待を向ける厳顔。
憤慨に憑りつかれた焔耶。
そして……懐古に留まった星。
答えを見つけられるモノなど誰も居ない。
誰も彼もが騙された。黒麒麟のマガイモノの演目を見抜けるモノなど居なかった。
形作られ始めていた“彼女達の平和”は、黒き大徳によって一日の内に壊され……黒の道化師が踊る乱世の舞台上へと引き摺り込まれることとなった。
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