道化師は桃の香に誘われず
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伸ばしても繋がらない手。
目を向けることも無く、存在すら認識せず、たった一人だけ……桃香からは見えているはずなのに、彼女の作る世界の外に居て、彼の側からは見て貰えない。
否定でも肯定でもない、どうすることも出来ない無関心の隔絶こそ、桃香の理想を追い詰める。
話を聞かれることがなければ、桃香の理想など初めから無いに等しいのだから。
桃香の望みを叶える為の答えは簡単だ。軍師でなくとも理解出来る。
興味を惹けばいい。ただそれだけだ。それなのに、たったそれだけが……桃香には出来ない。言葉も、武力も、魅力も、想いも……何も意味を為さず。
心に踏み入っても、踏み入った気になっているだけで、結果の認識は全て彼の心持ち一つでしかない。
口で興味を持ったと言われても、桃香が毛先ほどの疑いを持つだけで繋がったことにはならず、
変わってくれたと桃香が信じるだけでは自己満足に過ぎず、心という不明瞭なモノを確かめる術は、この世に一つもない。
矛盾の事柄を解き明かすことは誰にも出来ないのだから。
“他者を信じる”という桃香が持つ力は……黒き大徳の前でだけは全くの無意味となった。
「ぁ……ぁぅ……」
座したままで胸を押さえた桃香は、声にならない声を紡いだ。
吐く息は短い。瞳の中に入れていた輝きが翳りを見せた。いつでも、どんな時でも失われなかった光が弱くなる。
「と、桃香様っ」
茫然自失に陥り、ずるりと力無く倒れそうになった彼女を支えられるモノは、彼のことを知らないモノばかり。
愛紗も鈴々も桃香を支えることなど出来ず、悲痛に身を震わせるしか無かった。彼が敵となった事実は、彼女達にも痛いを与えているのだから。
近しかったモノが敵になるでなく、近しかったモノが他人になる。
悪でも善でも無いその出来事は、手を繋ごうと願う彼女を空虚に染める逆接事項。
もう一度と願うことも封殺する程の、虚しく寂しく冷たい現実。
――否定してもいいから……私を、ちゃんと見て……秋斗さん……
言葉に浮かぶことさえ無かったか細い願いは、虚無に取り込まれた桃香の心の中にふっと消える。
黒の道化師は……雛里達三人と徐晃隊が心に受けた傷を、言の葉の刃を以って大徳に刻み込んだ。
†
「聴こえてることを願うよ、劉玄徳。
俺はお前の理想を否定しない、肯定もしない。興味がないからどうでもいい。
ただ……俺が此れから見せるのは泡沫の夢では無く、お前の理想の行く末で、いつか起こり得る未来の姿。お前が武力を翳さずに平和を作ろうとしてるから、俺は武力を用いずにその平和を壊してみせよう。
抗いたいなら抗え、全てが台無しにされる前に俺を止めてみせるがいい」
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