道化師は桃の香に誘われず
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かげで整ってたんだからよ」
真に迫るモノ言いは、彼女達を悲哀に染め上げる。彼が言うからこそ真実として受け取られ、彼が言うからこそ事実として刻まれていく。
――うん……そうよ。黒麒麟が劉玄徳と共に生きれるような甘い人間だったなら、壊れることなんて絶対に無かった。
バカ共の想いを引き連れてなんか居なかったら、あんたはきっと、劉備軍で普通の武将として生き抜けた。
“劉玄徳と共に戦う黒麒麟”なら、官渡で曹操軍と袁紹軍を追い詰められた。
有り得るはずの無い“もしも”のカタチ。
桃香と同じ夢を見れる男であったなら、兵士と同じような戦いをしない只の将であったなら……桃香の一番の理解者になれたはず。
不和を恐れず口を出し、彼女に妄信せず人を狂気に落とさず、ただ目の前の民を救いたいと願うような……そんな男で居られたのだろう。
詠に伝えたかったのは事実と主観。
彼が判断した黒麒麟の行く末と嘗ての心。
劉玄徳と黒麒麟は決して道を交えることは無く、始まりの出会いからずっと相容れない関係であったのだ、と。
雛里が、詠が、月が感じていた事を“同じ思考を積み上げられる存在”の口から聞けば、彼女達にとってこれほど大きな判断材料は無い。
そして桃香達にそれを伝えたということは、秋斗が黒麒麟の歪んだ信頼の理由を看破していると、詠にだけ分かるよう教え……ソレを看破しているからこそ、この場では“曹孟徳と共に戦う黒麒麟”を演じ切れると宣言しているのだ。
「まあ……いいか。今更こんな話をしても意味は無い。
とにかく、だ。俺はあっちで平穏を作るって決めてんだ。俺と同じ世界を目指してる“華琳”とな」
ジクリ、と心が痛んだのは誰か。
彼が親しげに真名を呼んでいる。誰の名を? 彼女達が聞いたことのある者の名を。
桃香と愛紗と鈴々が歯を噛みしめた。黄巾の時、曹操軍の重鎮達が呼ぶ声を聞いていたから真名は知っている。
仲間だったモノが別の王の真名を呼び、共に平穏を作りたいと口にする。
それは嘗てあった自分達への信頼も、昔感じた自分達への共感も、何もかもを無価値だったと断じられるに似た衝撃的な言の葉だった。
雛里のように憎しみに染まっていたならまだ理解出来た。憎悪や怨嗟を向けるということは、拒絶という行動で彼女達を見ているから。
「……あなたは、曹操さんと一緒に戦うことを決めた。だから私達と戦う。そういうこと、なんだね」
どうにか立ち直った桃香が確認として口に出す。
悲哀と覚悟を浮かべた彼女は、心の芯をぶれさせることは無かった。
黒麒麟が敵になったという事実を、確かに取り込んだのだ。
――クク、何を終わった気になってやがる。黒麒麟はな……お前と逆接な、黒き大徳なんだぞ。
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