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乱世の確率事象改変
道化師は桃の香に誘われず
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た事実こそが全て。
 ある意味で、子供特有の善性を持つが故に、妄信に染まらないまま桃香の理想を体現していたのは、彼女なのかもしれない。それならばやはり……彼とは相容れない。

「ま、前のことを怒ってるのか? お姉ちゃん達のこと、やっぱり許せないのか? なぁ、お兄ちゃんっ」

 教えてっ……叫び出しそうな小さな少女の懇願にも、彼は笑みを崩さずに目を細めただけ。

――ゆえゆえの平穏を崩したお前らが、えーりんの前でそれを言いやがるのか。
 俺はお前らに黒麒麟が言い聞かせたはずの……黒麒麟が貫き、劉備軍にそうあれかしと願った道を口に出してるだけだってのに。

 激情などない。矛盾をわざわざ突いてやることもしない。彼はただ、矛盾に理解を置きながら自分を貫き通すだけ……黒麒麟と同じように。

 愛紗と桃香の瞳に後悔が浮かぶ。あの時のことが理由の一つなのだろうと思うが故に。
 しかし……秋斗の次の言葉で……絶句した。

「怒る? 許さない? 俺が? “黒麒麟が”? “たかだか主に信を向けられなかった程度”でか? あははっ、ふざけろ……あははははっ」

 渇いた声、渦巻く黒瞳が真っ直ぐに桃香を捉えて離さない。心底可笑しいと笑い声を上げる彼は、見下しも侮蔑も浮かべない。心の渇きをそのまま出したような笑いだった。
 鈴々のことを見もせずに、彼は黒麒麟を絶望に堕とした王に笑い掛ける。

「クク……怒ることなんざしないね。許すも許さないも無いさ。んなことには全く興味が無い。これっぽっちも気にしてないんだよ。
 只々“俺”は、思い描く平穏の為に必要だと思うから、“今の劉備軍”が作り上げる平和を壊したいって言ってんだ」
「う、嘘なのだ……」
「俺がすることは終わりを迎えるまで変わらない。善人だろうが悪人だろうが踏み潰す。その対象がお前らじゃないなんて……随分とお花畑な頭してやがるなぁ、おい」
「嘘っ! 嘘なのだ! だって、だってお兄ちゃんは――」
「ほんとだよ。なぁ……」

 えーりん、と小さく唇が動く。
 詠本人は彼の言動に驚き見つめてしまっていた為に、その動きを捉えられた。つ、と頬に流れる一筋の汗さえ気にせず、彼が自分に何を言わんとしているのか意識を尖らせる。

「俺が……“黒麒麟が”この軍に戻っていないのがその証明だ。最初の最初から劉玄徳の思い描く未来を共に作ろうと決めていたなら、とっくの昔にお前さん達の所に戻ってる。
 いや……始めっから曹操軍所属なんて事態には発展しなくて、“あの時”、劉備軍を離れるわけが無い。
 怪我して離れてたってのもあるが、治れば戻る機会なんざいくらでもあったし、あの官渡の戦いで曹操軍を壊すことだって出来たんだが? 曹操、袁紹両勢力に大打撃を与える準備だって、“俺の同類”の紅揚羽と田豊のお
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