道化師は桃の香に誘われず
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秋斗さん”も……そうだよね?」
見つめる視線の強さに気圧される。圧力は弱々しいながらも奥に輝く光の強さがあった。
言葉に詰まったかのような静寂の中、彼から漂うのは困惑の気。
――そんな問いかけをこの時機でするなんて、しかも天然……やっぱりあんた達二人って相性悪過ぎるわよ。
その問いかけは彼の心を抉り抜くモノだと、詠は誰よりも知っている。
人を救いたいと願いながら剣を振る黒き大徳にとって、“戦いたくないのに戦っているのか”という問いかけは弾劾の刃に等しい。
矛盾に突き刺さる正論からは逃げられない。矛盾している時点で、彼の理論は破綻しているのだから。
思わず彼に心配を向けそうになった。しかし詠は、瞼を瞑ってただ耐える。
黒麒麟を演じるのなら、この程度は切り返してみせろ、と。
幾分、緩く彼が失笑を零す。自分に向けてか、相手に向けてか……どちらもだろうと詠は思った。
「……勘違いしてるな、お前さんは」
心を内側に隠しながら、何を、と桃香が聴く前に、彼は楽しげに語り始める。まるで、黒麒麟のように。
異質に変わった彼の纏う気が、嘗て洛陽の陣内で董卓の真実を明らかにされた時と同質に変わった。
「良く聞け。
俺はな……描く平穏を手に入れるために必要ならば、敵がどんなモノであろうと……戦を起こし、血を流し、人を殺すぞ。
どれだけの人間が平和を享受していようと、お前達が作り上げた和を掻き乱すことに躊躇いは持たない。
俺がすることはいつだって変わらねぇ。血の華を、紅い華を、想いの華を……この乱世に咲かせるだけだ」
流し目に息を呑んだのは誰か。桃香も愛紗も、理不尽に民が殺される世を憂いていた彼を見てきたから、その発言に思考が止まる。鈴々に至っては、敵対心を向けられて酷く傷ついた表情を浮かべた。
やはり、と目を伏せたのは星。戦わずに済むなどと甘い認識は捨てている。
「お、お兄ちゃん……? り、鈴々達が暮らしてる街には、争いなんてないのに……鈴々達は、お兄ちゃんと一緒に、皆が暮らす街を平和にしてきたのに……一緒に作って来たのは、お兄ちゃんが作りたかった街のはずなのに……なんでっ、なんで戦う必要があるのだっ」
苦しげな声、目の前で言われた言葉が嘘にしたいと滲み出ている潤んだ瞳。先ほどまで甘えて、幸せだと感じていたのに……今はその距離が遠すぎる。
鈴々は信じていた。曹操軍に行ったとしても、行く先々で平和な街を作り上げてきたからこそ、共に在れるのだと。
争いを望むようなモノではないから、ずっと同じように街を作ってきているから、彼と争う必要など無く……面と向かって話し合えば、“必ず目を覚ましてくれる”、と。
無垢な彼女には難しいことは分からない。一緒に作り上げてき
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