道化師は桃の香に誘われず
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の人々との意思疎通や意思確認に政治機構の偏差調整、民心の安定に益州太守の明確化。他にも……いや、いいや違う。そんな小難しい言葉並べなくていいってこったな、お前さんにとっては」
彼女の返答を意外とは思わない。そのままつらつらと自分が思いつく限りの懸念事項を上げて見るも、彼は途中で首を横に振る。
「一つ一つ笑顔を増やせばいい、きっとみんな分かってくれるから。だから皆の力を貸りて、こっちの方がきっといいよって話し合って変えていく……それが答えか」
分かり易く、単純な解答が場に落ちた。
まるで桃香の科白をそっくりそのまま複写したような答え。曖昧で、不明瞭で、されども目指すモノが見えている解答。
ピタリと当てられたことに一寸驚き、桃香は何処か難しい顔をして悩みはじめる。
彼が何を言いたいのか、いつでも分からないのに今回は余計に謎過ぎる。
“倒さなくてはならない”と考えていた彼が、不敵ながらも自分の答えを分かった上で話している。
なら……一歩だけ踏み込んで話してみることも必要なのではないか、しかしそれをしてもいいものかどうか。
狙いは何かと疑ってもいながら、ほんの少しだけ希望的観測もしている。
味方に戻ってくれるのなら、これほど嬉しいことは無いのだから。
そういえばと思い返すのは、彼とは真剣な問答を大きな分岐点でいつでもしてきたこと。
幽州の出会いで、虎牢関で、洛陽で、徐州で……彼はいつでも理想についてや目指すモノが何かを問いかけてきた。
問いかけられ、答えを返し……そういう時の解答は決まってぼかされている。確たる彼の思考などほとんど言わず、桃香の答えに同意か否かを示し……
“迷うなよ”、と。
最後に付け足す言葉はいつでもソレだった。
去り際に雛里は言っていた。
覇王との敵対を選んでまで桃香と作る世界を信じていた、と。
信じなかった事で彼を追い詰めたから、今度こそ彼を信じなければならないのではないか……そう考えてしまうのも詮無きかな。
もしかしたら、彼は本当にまだ桃香のことを信じているのかもしれない、そんな淡い希望が胸に湧く。
罪悪感は消えることは無い……が、迷いの迷路に嵌ることなく、信じなくてどうする、と自身を叱咤した。
迷うことこそ、愚問だと。
彼女に出来る事は、いつだって同じ。
オーバーヒートギリギリまで思考を回し、彼女は下唇を噛みしめる。
「……うん、そうして私は街を、益州を変えていく。ううん……益州だけじゃない。出来ることならこの大陸の全部をこうやって変えて行きたい。戦いなんて、誰かに血を流させるのなんて、嫌だもん」
「へぇ……そうかい」
ふっと漏らした吐息が突き放すように思えて、桃香は泣きそうに眉を顰めた。
「“
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