第一部
第六章 〜交州牧篇〜
七十八 〜新たな娘〜
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事を今はまだ、伏せておかねばなるまい」
「……わかりました。では、その手筈で」
恐らく、相手は我らに気付いているであろう。
疾風だけならともかく、稟に気配を消せと言うのは酷というものだ。
「そこにいる者。私に何用か?」
「!」
私が声をかけたのが、どうやら予想外だったのだろう。
眼には見えぬが、動揺しているのが伝わってくる。
その刹那。
「捕らえた!」
「キャッ!」
素早く疾風が取り抑え、相手は悲鳴を上げた。
「良くやったな」
「いえ。……ん?」
「どうした?」
「……まさか。稟、手近な部屋はないか?」
「それなら、そこに物置部屋が」
「そこでいい。歳三殿、お手伝い下さい」
冷静な疾風が、あれだけ切迫したのも頷けた。
闇に潜んでいた相手が、当の董旻とは誰も思うまい。
燭台の薄暗い光の中、微かに表情が窺えた。
「何故、部屋を抜け出した?」
「……申し訳ありません」
「責めているのではない。ただ、理由は申せ」
「それは……」
言い淀む董旻。
「当てて見せましょうか。洛陽に、何進殿の処に戻るおつもりでしょう?」
「えっ?」
「やはりですか」
稟は、得心したように頷く。
「あなた様と何進殿の絆はかなり深いと見ました。いくら何進殿のお言葉とはいえ、おいそれとは従えないぐらいに」
「…………」
「その何進殿は、相変わらず苦境から脱せずにおられる。なのにご自身は遠く離れた場所に来てしまった事に対して忸怩たる思いがある……違いますか?」
項垂れる董旻。
その反応が、肯定を現していた。
「董旻」
「……はい」
「お前の気持ち、察するぞ。姉である月を気遣っての事という事もな」
「……やっぱり、土方様に隠し事は無理でしたね。仰せの通りです」
「だが、此所を出る事は許さぬ」
「…………」
董旻は、下唇を噛んだ。
「何進殿の命、という事もあるが。お前が仮に洛陽に戻ったところで、何進殿は本当に喜ぶのか?」
「何進様の言いつけに背くつもりはありません。勿論、大手を振って何進様の下に戻れるとも思いません」
「それで、影ながら守るつもりでいたのか。……自惚れだな」
私の言葉に、董旻は一瞬絶句。
そして、凄まじい形相で睨み付けてきた。
「土方様! いくらあなた様とは言え、あんまりです!」
「そうかな? 何進殿や月が相手にしているのは、陰謀に長けた宦官共らだぞ? 奴らが権力を手にしている以上、個人で対抗するなど無理な話だ」
「そうかも知れません。でも、何もせずにはいられないんです!」
「お前の必死さ、真摯さはわかる。だが、感情の赴くまま洛陽に出向いたとて、お前が何を変えられる?」
「…………」
「それに、何進殿の意を無にするつもりではあるまい? 全ては、お前
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