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大切な一つのもの
37部分:第三十七章

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第三十七章

 皇帝は都に留まっていました。その彼のところに報告が届きました。
「騎士達が」
「戻ってきたのだな」
 それを聞いてすぐに悟りました。
「遂に」
「ですが陛下」
 ここで報告をする大臣は戸惑いながら言うのでした。
「彼等は何も持って来ておりません」
「何もだと」
「はい」
「ふむ。これはおかしいな」
 皇帝の横にいる教皇がそれを聞いて怪訝な顔を見せてきました。
「何も持って来てはいないとは」
「だが」
 皇帝はそんな教皇に対して言いました。彼は自分の騎士達に対して絶対の信頼を置いていたのです。だからこそ言うのでした。
「彼等はきっと持って来ている」
「きっとか」
「その通り」
 教皇への対抗意識もありましたがそれ以上に彼等を信頼していました。だからこその言葉でした。
「きっとそれを持って返って来ている。心配は無用だ」
「ではここで待っているだけでいいのだな」
「私は待つ」 
 その言葉には何の迷いもありませんでした。
「それだけだ。そなたが何を言おうともな」
「決意は固いか。ならば」
 教皇もその言葉に頷きました。そうして。
「わしもそれを見せてもらうとしよう」
「そうするがいい」
 仲の悪い二人ですが今は同じ心でした。その同じ心のまま騎士達を待つのでした。
 やがて九人の騎士達がそれぞれ入って来ました。どの顔も晴れ晴れとしています。その顔を見ただけで何かを持って来ているのがわかります。
 皇帝は騎士達が自分の前で一礼して片膝をつくのを見ていました。それを見届けたうえでようやく彼等に対して声をかけたのでした。
「これまでの旅御苦労であった」
「はい」
 騎士達は畏まって応えます。
「そなた達の顔を見せてもらった」 
 皇帝は次にこう述べました。まるでその言葉自体も儀礼であるかのような言葉の進め方でした。
「晴れやかな顔をしているな」
「有り難うございます」
「では聞きたい」
 いよいよ彼等に尋ねました。
「その方等。見つけたか」
 そう彼等に。
「この世で最も大切なもの。それは何か」
「それは」
「それは?」
 あらためて九人の騎士達に問います。
「何か」
「愛です」
 彼等は一斉にそう答えました。声は同時でした。
「この世で最も貴いもの。それは愛です」
「愛か」
 皇帝は彼等に問い返しました。それを確かめる為に。

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