麒麟を封じるイト
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にはお似合いだし」
「まあ、なんとなく分かるけど……」
思い返せば確かに華琳と言えば欲が深いというよりは欲が張ってる感じだと思った。
なんとなくしっくりきたことで詠の心にもストンと落ちる。納得した彼女を見て、尚も彼は続けて行った。
「全てを救えるってのはさ、欲深い考えだと俺は思う。近くに居る奴等が大事なだけの人間にしか口に出来ない言葉だ。
だって乱世なんかしちゃあ、“あいつが望む全て”を救うなんざ出来っこねぇ。
あいつが欲しいもんは“只の人間”にさえ宿ってる。自分が命じて殺す兵士にも、自分が命じて命を捨てさせる兵士にも、攻め入る街にも、攻められる街にも」
「あ……」
呆然と詠が一息零した隙にと、彼はまたお茶を一口啜る。
「あいつが救いたいのは“全て”だけど、あいつは“全て”を救えないって分かってる。
華開くことなく失われるのが哀しくて、でも華開かせようと抗う姿が愛おしくて……故にあいつは救いたいと願う“全て”に、誇り持ち強く在れと願い先導する。
大事な奴に対して“死ね”って命じられる覇王だから、その言葉に重みと想いが宿るのさ。誰かの命を使ってでも手に入れたい平穏がある……“国の幸せ”を考えるってのはそういうこった。
切り捨てられる誰かにとっちゃ悪役で、救われる奴等にとっちゃぁ救世の英雄。冷たい選択を決断し実行できるもんは世界に一番必要で、貧乏くじを全部自分のモノにするような悪役だ。
そんな誇り高い悪役と同じなら、別に俺は悪役でも構わねぇって思うがね」
合わされた瞳が伝えるのは真っ直ぐな信頼。
嘗て劉備軍に所属していた黒麒麟が、絶対に主に持たなかったモノ。
幻想に対する信仰に近しい捻子曲がった信頼を向けていた彼とは全くの別感情。
詠の胸に湧く感情は安堵と切なさであった。
――ホント……あんたって最初に華琳と出会ってたら救われてたんでしょうね。
出来れば月と出会って欲しかったが、とは口が裂けても言えない。
今ある関係が全てだから。仲良くなってしまった今では、華琳達と戦うことなど考えたくも無かった。
そんな彼女の内心を知るよしも無く、詠がふるふると首を振ったと同時に……穏やかに微笑んだ秋斗は詠にとって思いもよらない言の葉を零した。
「だから安心しとけ、えーりん。
“同じ悪役を全うしようとしてた”黒麒麟は、絶対に華琳と共に戦えるんだからよ」
「え……」
お茶を啜りつつ瞼を閉じた秋斗はそれ以上言うつもりが無いと態度で示す。
取り込むには一瞬過ぎて理解が追いつかず、詠は慌てて聞き返し――
「ちょ、ちょっと、今あんたなんて言った――――」
「お待たせしましたっ」
がらりと開けられた引き戸からの声によって、問い詰めを中断せざる
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