麒麟を封じるイト
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西涼が漢の忠臣だっていうのなら帝に従うことを選んでもいい、孫呉が嘗て手に入れた大地を守りたいなら此のまま安寧を求めてもいい、劉備が他者と手を繋ぎたいと願うなら此処で安穏と暮らせばいい……帝という天と、曹孟徳という覇王に頭を垂れて永久の忠誠を誓うという絶対条件の元で、ね」
「正解……一度でも頭を垂れれば、安定した地盤と中央権力、天たる皇帝と民心の革新を手に入れてる俺達の勝ちが決まり、絶対に勝てない政治戦争だけで終わる。暗殺も裏切りも内乱も起こせないよう、あの官渡で逃げ道は封じてあるんだから」
吊り上った口元でお菓子を一口に頬張った。美味いと零してまた笑う。
「まあ、何より……戦をすればするほど人間って人材が失われるからな。たかが一兵士であろうと、煌く才を持っている可能性だってあるんだよ。心の底から折れて従うってんなら、それもまた良しと敵と見做していたモノに失望しながらも満足するだろう。
華琳は乱世で自分を試したい欲望よりも、世の中を輝かせる才能の華の方が欲しい。覇王様は煌く才能を持ってる奴等だけじゃなくて、人間って存在が大好きなのさ」
楽しそうに語る彼は、その瞳に憧憬と信頼を乗せて。
出会った覇王が“名のある輩を求めるだけの下らない人間”では無くて心底嬉しかった。
史実通りに、現代で語られている通りに……“貴賤の別無くまだ見ぬ才を求め、愛する人間”であったことが嬉しかった。
――なによ……嬉しそうに話しちゃってさ……
詠の心に僅かな嫉妬が生まれる。チクリと痛む胸と、不機嫌に寄せられる眉が物語っていた。
ただ、饒舌に語る彼が珍しくて、話を止めようとは思わなかったが。
「そんでもって“西涼や孫呉や劉備が絶対に抗うと分かってる”からこそ、この乱世が哀しいのに嬉しくて嫌いなのに好きで好きで堪らない。
自分が全力を出して楽しめる乱世と、才持つ輩を自分の力で手に入れる充足感と、自身に抗う気概を持つ愛しい好敵手を得られるんだから」
「なんか……華琳もあんたと同じくらい変な奴よね」
「変で結構。華琳ならそう言うんじゃねぇ?」
拗ねた口調のまま言ってみた詠。くつくつと喉を鳴らした彼は詠の頭を軽く撫でる。
「うぁぅっ! 気安くさわんなバカっ!」
「いてっ……す、すまん」
普段通りに肩を叩かれて、コホンと咳払いを一つ。また話を戻そうと。
「……後の世で失われる命さえ勘定に入れてるから、零れちまう命を分かってる。全てを救うとかほざいちまう傲慢で欲深い王じゃない」
「……欲深い? 欲張りじゃなくて?」
疑問を一つ。
言い方一つの問題だが、彼が嫌悪を僅かに浮かべたことが引っ掛かった。
「欲深いって言えば欲張りより強欲の業が深い気がするだろ? 欲張りだったら意地っ張りな華琳
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