第一部
第六章 〜交州牧篇〜
七十六 〜新天地〜
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の二人が一緒ならば何の心配も要らぬであろう。
「……士燮さんの為人はまだよくわかりませんが、この治政だけは本物ですね」
「……ああ。癪だが、それは認めざるを得ないな」
「確かに、いろいろな商人が……む?」
立ち止まった私を、二人が訝しげに見た。
「歳三さん、どうかなさいましたか?」
「誰ぞ、不審人物でも?」
「いや。……二人とも、参れ」
「は、はぁ……」
「殿から離れる訳には行きませぬ。お供致しますぞ」
私の眼は、一軒の店に惹き付けられていた。
カンカンと、鉄を打つ音が響いてくる。
「鍛冶屋さん、ですね」
「殿、一体何を見たのです?」
「……うむ。見間違いやも知れぬが」
戸口を潜り、
「ごめん」
奥に向かって声をかける。
すぐさま、若い男が顔を見せた。
「はい。あ、いらっしゃいませ」
「つかぬ事を聞くが。この店の主は、何処から参った?」
「……あの。失礼ですが何方様で?」
「此度、この交州牧に任ぜられた土方だ」
「……え、ええっ! し、暫しお待ちを!」
男は慌てて、奥に駆け込んでいく。
「どうしたんでしょうね?」
「殿のお顔は知らぬらしいが、名を聞いた途端あの反応ではな」
「私もあの者には見覚えはない。ないが……」
と、先般の男が戻ってきた。
その後ろにいる老人には、確と見覚えがある。
「お、おお。紛れもなく、土方様だ」
「久しいな、親爺」
「はい。土方様を追いかけて、此所までめぇりやした」
カラカラと、老人は笑った。
我が愛刀を蘇らせた、あの老鍛冶である。
「久しぶりに、腰の物を拝見させていただいても宜しゅうございやすかい?」
「ああ、頼もう」
兼定を鞘ごと抜き、老鍛冶に手渡した。
「おい、見ねぇ」
「……こ、これは……。このような業物、初めて見ました」
若者が、眼を丸くしている。
「当たり前だ。こいつはな、俺が長年見て来た得物でも、一、二を争う名剣だぜ?」
「師匠がそこまで惚れ込むなんて、余程の代物って訳ですね」
「そういうこった。土方様、お約束通り、こいつはあっしが研がせていただきまさぁ」
「うむ、親爺ならば問題あるまい。だが、その為に私を追ってはるばるやって来たと申すか?」
「当然でさぁ。あっしはね、その兼定に惚れ込んじまいやしてね。土方様が冀州を去ると聞いてから、どうも寝覚めが悪くていけねぇ。で、老骨に鞭打って、って訳でさぁ」
「そうか。兼定も、刀冥利に尽きるであろうな」
呆然としているのは、親爺の弟子だけではなかったようだ。
「彩、愛里。お前達の得物も、この者に研ぎを頼んではどうだ?」
「……殿。それ程の腕があるのですか、この者は?」
「うむ。信じ難いか?」
「い、いえ。殿があれだけ大切になさる愛刀を託す程ですから」
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