巻ノ二十 三河入りその五
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「天下人が生まれる状況になっておるのは確かじゃしな」
「後はその天下人が定まり」
「そして一つのまま進む」
「そのことがですか」
「肝心なのですな」
「一つの家の下でな」
後で跡目争いなぞ起きない状況ならというのだ。
「そうした世になるかどうかじゃ」
「後は」
「そのことですか」
「羽柴殿の様に一代のうちはいいですが弱みの多い家ではなく」
「安定した家であることが肝心ですか」
「織田家ならよかったがな」
幸村は今度は信長を肯定した。
「あのまままとまっていたらな」
「戦国の世は終わった」
「あのままですか」
「今はまだ戦が行われているにしても」
「それでも」
「そうなっていたやもな」
流れがだ、そうなっていたのではというのだ。
「もっともそれがよいかどうかはわからぬが」
「織田家の天下もですか」
「それもまた」
「そこは人にはわからぬ」
誰の天下がよいかはというのだ。
「羽柴殿にしろそれは同じ、そしてな」
「徳川殿がなられても」
「それは、ですか」
「その政が実際になるまでにな」
わからないというのだ。
「わからぬ」
「ですか」
「そこまでは、ですか」
「わかりませんか」
「政が実際に行われるまでは」
「戦だけで天下は収まらぬ」
幸村は峻厳なまでにだ、この現実を話した。
「馬上で天下は取れてもな」
「治めることは出来ない」
「政はまた別ですか」
「戦で天下を一つにし」
「政で天下を治めるものですな」
「前右府殿の政は素晴らしかったが」
しかし、というのだ。
「天下の政はまだはじまっておらんかったからな」
「だからですか」
「前右府殿についてはですか」
「そこまでは見えない」
「そういうことなのですか」
「どうもな、ではな」
ここまで話してだ、そしてだった。
一行は三河を見て回った、その中で家康がかつて居城にしていた岡崎城も見たが猿飛はその城を見てこう言った。
「大きくなく」
「ある場所も攻めやすいのう」
由利も言った。
「どうにも」
「うむ、これではな」
「外で戦うしかないわ」
こう二人で話すのだった。
海野もだ、こうしたことを言った。
「三方ヶ原では徳川殿は浜松におられたが」
「浜松も大体同じだそうじゃ」
穴山が海野に応えた。
「平地にある小さな城じゃ」
「それではな」
「籠城しても知れている」
「それで外で戦うのが主か」
「徳川家はな」
「そういえば三河武士は外での戦は強いが」
根津は彼等自身のことを話した。
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