巻ノ二十 三河入りその二
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「徳川殿は天下人の資質があるやもな」
「羽柴殿と同じだけ」
「そうしたものをお持ちですか」
「徳川殿も」
「そう思われますか」
「そうも思えてきた、この三河の姿を見てな」
その落ち着いたまとまりを見て、というのだ。
「その様にもな」
「天下は羽柴殿のものとです」
「殿も我等も思っていますが」
「まさかここで」
「徳川殿にですか」
「いや、天下は羽柴殿のものとなる」
このことは間違いないとだ、幸村は十人の家臣達に述べた。
「既にその地盤は固まりつつある、柴田殿を倒せば」
「羽柴殿が天下人となる」
「それはもう決まっていますか」
「そうじゃ、しかしな」
それでもというのだった、幸村はここで。
「跡がな」
「羽柴殿のですか」
「後継の方が、ですか」
「羽柴殿にはおられぬ」
「そのことが問題になりますか」
「三好秀次殿がおられるがな」
秀吉の妹の子であり彼にとっては甥にあたる人物だ。出来はともかく秀吉の数少ない親族の一人として知られている。
「あの方だけじゃ」
「羽柴殿にはお子がおられぬ」
「そのことが問題ですな」
「もう四十を過ぎておられますが」
「それでもですな」
子がいないことがだ、秀吉の泣きどころだというのだ。
「そこが厄介ごとになると」
「あの方にとって」
「しかも羽柴殿は一代で上がられた方じゃ」
幸村は秀吉のこのことも指摘した。
「代々の譜代の家臣がおられぬ」
「そういえば」
「あの方は百姓から上がられました」
「ですから譜代の家臣の方はおられませぬ」
「一門の方も少ないですし」
「弟君の秀長殿がおられるが」
秀吉を支える彼だ、賢弟として知られている。
「やはり少ない」
「普代の家臣がおられぬ」
「そのこともですな」
「厄介なことですか」
「あの方にとっては」
「だから子飼いの方や他の家の重臣を取り立てておられるが」
普代の家臣がおらず一門衆もいないという弱みを補う為にだ、秀吉自身がそのことが痛いまでにわかっているのだ。
「しかしじゃ」
「それでもですな」
「あの方にはそうした方がおられぬ」
「そしてそのことがですか」
「あの方のもう一つの弱みですか」
「拙者と御主達も一代からのものじゃが」
十人は譜代ではない、幸村は彼等にも言った。
「羽柴殿とは違う」
「はい、言われてみれば」
「羽柴殿は天下人、殿は侍」
例え真田家の次男であってもだ、幸村の資質はそれだ。秀吉の様に天下人になろうとし天下を治めんとする者ではないのだ。
「そこが、ですな」
「違いますな」
「しかも殿は上田に代々の家臣がおられます」
「真田家に仕えておられる方々が」
「しかし羽柴殿は違う」
「そこも弱みですか」
「拙者はよいのじゃ」
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