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大切な一つのもの
16部分:第十六章

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第十六章

 それから数日後。知らせが姫のところに届きました。
「弟が・・・・・・見つかったのですか」
「はい」
 知らせを届きに来た若い従者が片膝をついて姫の前にいます。そのうえで報告しています。
「緑の森の奥深くにおられました」
「あの森にですか」
 その森はとても深い森です。何処まであるのかわからず、魔女がいるのではとも言われているとても恐ろしい場所なのです。公爵はそこにいたのだと聞いて姫は顔が青くなりました。
「それで弟は」
「御安心下さい」
 従者は顔を曇らせた姫に答えました。
「公爵様は。御無事です」
「本当ですか!?」
「あの白鳥の騎士様が救い出して下さいました」
「そうですか、やはり」
 騎士の名を聞いて顔が綻びます。もう自分の気持ちを隠しもしていません。
「あの方が」
「魔女に呪いをかけられて小鳥にされていたのですが。騎士様が魔女を倒し」
「呪いを解かれて」
「もうすぐです」
 従者はまた姫に報告します。
「公爵様は。騎士様と共に帰られます」
「わかりました」
 姫はそこまで聞いて頷きました。それからすくっと立ち上がりまた言います。
「それでは宴の用意を」
「公爵様を祝われる」
「それだけではありません」
 ところが姫はこう付け加えました。
「婚礼の用意を」
「婚礼の!?」
「そうです」
 また従者に告げます。
「宜しいですね」
「あの、婚礼といいますと」
 姫の言葉の意味がわかりません。従者は顔をあげて姫に問います。
「公爵様の」
「いえ」
 姫は従者の言葉に首をゆっくりと横に振ります。そうしてまた言うのでした。
「私のです」
「姫様の!?」
「そう。そしてあの方との」
「あの方・・・・・・ですか」
「そうです、宜しいですね」
 また従者に告げます。
「あの方と私の」
「わかりました」
 そこまで言われてようやく悟りました。言葉を受ける従者の顔にも曇りはありません。
「では今からすぐに」
「ええ。お願いしますね」
 また従者に告げます。
「そうして。あの方と共に」
 姫は立ち上がりました。そうしてそのまま婚礼の間へと向かうのでした。姫も騎士も今愛を手に入れたのでした。

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