第一部
第六章 〜交州牧篇〜
七十五 〜交州〜
[5/6]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
という事か。
内通する者を作る危険はあるが、そこは御する者の腕次第という事なのであろう。
「それだけではありませんけどね。見て下さい、この川の流れを」
全員が、珠江に眼を向けた。
「緩やかに、蕩々と流れていますよね。これと同じ事です、異民族との付き合いも」
「常に自然体、という事でござるな?」
「ええ。異民族と言えども人間、言葉の壁があったとしても、此方が身構えれば相手も警戒します。ですが、逆の事を徐々に進めていけば……どうでしょうか?」
「それが、極意という事か?」
「ふふ、極意などと大それたものじゃありません。私達にとっては、それが当たり前なだけですよ」
その当たり前の事を、出来ぬ輩が多い故に、異民族との諍いが絶えぬのだが。
まだまだ、秘事があるのやも知れぬな。
「そう言えば、土方様も異国の方と伺いましたが」
「耳が早いな。その通りだ」
「随分、あっさりとお認めになるのですね」
意外そうに、眼を丸くする士燮。
「既に陛下もご承知の事。今更隠すつもりもない」
「しかし、異国の方となれば、何かと差別されたり、好奇の目で見られるのでは?」
「やむを得まい。だが、その事で何か不便を感じた事もない」
「…………」
「それに、妬みや恨みは避け得ぬ生き方をしてきた。今もこうして、それを受け入れているつもりだ」
「お三方は、土方様が異国の方であっても、思う事はないのですか?」
「いえ。歳三様は優れた御方。異国の出であろうとなかろうと、私には関係ありませんね」
稟が口火を切ると、風と星も続いた。
「風にとっては、お兄さんはお兄さんでしかありませんから。大陸中を回って、お仕えし甲斐があると見定めた御方ですしー」
「拙者も同様。この槍を託す御方は、他にはござらぬ。この国の者で、主以上の人物はおらぬ、そう信じておりますからな」
「……そうですか。慕われているのですね、土方様は」
士燮は一人頷くと、
「さ、では城へご案内します。ささやかではありますが、歓迎の酒宴にお招きしますわ」
そう言って、微笑んで見せた。
その夜。
……ふと、妙な気配を感じて目覚めた。
敵意という物ではないが、誰かに見られている気がする。
何処かの間諜か?
隣で寝息を立てている愛紗は、気付いておらぬようだが。
だが、間諜ならば疾風か、その手の物が黙ってはいまい。
と、天井から何かが舞い落ちてきた。
紙片に、何かが書かれている。
……そういう事か。
愛紗を起こさぬよう、私はそっと臥所を抜け出した。
「夜分に申し訳ありません」
「いや、構わぬ。だが、疾風らの眼をかいくぐるとは大したものだな」
「いえ。まだまだ未熟者です」
低く抑えた声で話すのは、明命。
「して、用向きは?」
「
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ