第一部
第六章 〜交州牧篇〜
七十五 〜交州〜
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の刺史には、軍事権はなかった筈だが?」
「はい。土方様が仰せの通りなのですが、この交州は事情が違いまして。『南越国』の事はご存じでしょうか?」
「些かは」
稟や朱里らに訊ねれば良いだけかも知れぬが、士燮の話の腰を折る事もあるまい。
「遠い昔、秦の末期にこの辺りを支配していた国です。漢の世になり、征伐されて滅亡しましたが」
「そして、この地は交州となったという訳か」
「そうです。ただ、その後も一度、徴姉妹による支配が三年ほどあり、その時も朝廷から将が派遣され、再び征伐される事となりました」
辺境の地故、遠い洛陽の命に従わぬ雰囲気があるのやも知れぬな。
「そのような事情もあり、またこの交州は異民族と接する地でもあります。ですから交州刺史には、特に軍事権が与えられていました」
「なるほどな。だが、張津はその権利を本来の目的ではなく、私怨を晴らす為に使っていたというのだな?」
「その通りです。我々にも、幾度となく兵を供出するよう命令がありました。お陰で、犠牲となった兵は決して少なくはありませんでしたが」
無念そうに、唇を噛み締める士燮姉妹。
「だが、張津は私が交州牧に任ぜられる前に、他界したのであろう? 戦死したという事か?」
「……いえ」
顔を上げた士燮の眼は、どこか冷めていた。
「そのような御方でしたから、部下からの信望もなかったようで。些事が切欠で、反乱が起きて呆気なく討ち取られました」
「部下の反乱?」
「ええ」
……あまり、語りたくないようだな。
事の真相は、後で風に調べさせるとするか。
「さて、どうぞお入り下さい。ただ……」
と、士燮は後に従う軍勢に眼を向けた。
「わかっている。愛紗、彩」
「御意!」
「直ちに!」
以心伝心、多くを伝えるまでもない。
「やはり、兵らの顔つきが、心なしか穏やかに感じます」
「ふふ、疾風さんもそう思いましたか。長い道のりでしたが、漸く辿り着きましたからね……」
しみじみと言う愛里。
確かに、遠い道のりであったな。
番禺城。
そして、番禺の街。
それらを目の当たりにして、私は己の迂闊さを呪うより他になかった。
……先入観は常々危険と己に言い聞かせてきたつもりであったが、どうやら私もまだまだのようだ。
「士燮。この城壁は?」
「はい。先ほどお話しした、南越国の時代に築かれたものと言われています」
「……壮大だな」
「全長は約十二里あり、街は完全に城壁に囲まれています」
十二里という事は……私の感覚で行けば一里半。
それでも、長大な事には変わりはないな。
「南は珠江に面しています。ご覧になりますか?」
「うむ」
頷いた士燮は、城門を通り抜けていく。
襄陽や陳留、ギョウに比べれば絶対的な人口は少ないものの、街
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