紗を裂く決別の詠
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してと聞いても答えられないほどの悲哀に沈み、小さな少女は一晩中泣いていた。
目の前で絶望に堕ちる想い人を救えなかった痛みは、どれほど大きいのだろう。
憎まれても当たられても、想い人から嫌われても構わない、それでもと彼の平穏を願った彼女はどれだけの痛みを耐えたのだろう。
これから新しく、自分達の道を歩いて行けると思った矢先……想い人から喪失の言葉を告げられるのはどれだけ……絶望を感じたことだろう。
やっと想いを伝えあえた愛しい人から忘れられるというのは……どれだけ……
――“アレ”が雛里の最後に出会った秋斗なら……
ほんの少し前に出会えた想い人の姿を思い出して、彼女の心が締め付けられる。
絶望の底で壊れた彼は、詠のことを見てすら居なかった。
あの目を向けられても耐えた“愛しい親友と同じくらい大切になったもう一人の親友”を思い出せば思い出す程に、詠の心にドス黒い感情が湧き募る。
――こいつらを許せるわけ……ないよね。
高速で回転し始める脳内は、詠の内心と所属勢力の利を同時に得る答えを弾きだす。
幾分、詠は愛紗に向けて薄く笑った。
「“初めまして”。
曹操軍よりの使者、“荀攸”と申します。以後……お見知りおきを。ただ……」
雛里の絶望と、月の悲哀と、彼の苦悩を知っているから。
詠は一つの決別を投げ渡す。この世界に生きるモノにとって、最大限の屈辱を与える決別を。
なんのことはないと普通の声音を装いながら、過去の清算を言い渡した。
「覇王の臣にして黒き大徳が友、この荀攸の真名……僅か一寸の時間で預けた覚えは無いのだけど? もし、ボクを“侍女の詠”として呼んだのなら返して貰いましょうか」
恩知らずと罵られようと、敵対示唆は明確に。
嘗て雛里が桃香に突き付けた真名の返還をより深く。
慕うモノが記憶を失い、大好きなバカ共が悲哀のどん底に落とされ、親友二人も絶望を感じた。雛里と同じことをしてもいいと思うほど、彼女達を許せなくなった。
敢えて愛紗に言い渡した理由は……血の滲む努力を続けて行きた大バカ者共が信じたのに、真に並び立っていたはずの将である愛紗が信じなかったと理解しているから。
大好きで愛しいバカ共と同じ想いを宿す詠は、共に戦う仲間を信じないモノを許すことは無い。
秋斗とは違う宣戦布告を一つ。この敵対示唆が必ずや、曹操軍の利となると判断してのこと。
「……っ」
愛紗は息を呑む。
初めて直接突き付けられる拒絶の意に、憤慨することもなくただ打ちひしがれた。
ふいと向けた視線の先、黒の男がため息を漏らす。斜め後ろから詠を見下ろすだけの彼は、なんら咎めもせずに困ったような顔を見せるだけ。
何処かで、彼なら止めると思っていたのか
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