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乱世の確率事象改変
紗を裂く決別の詠
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なし。
 つかつかと歩み寄り、眉間に皺を寄せたままの麗人は……焔耶と顔が付くほどの距離で立ち止まった。

「愛紗、こいつらは――――」
「桃香様からの通達だ。お前は城に戻れ」
「な、何故私が……ひっ」

 突き刺されるは戦場かと見間違う程の殺気が場を包む。先ほどまで焔耶が発していたモノなど児戯に等しく感じられる死を振り撒く殺気が。
 黒髪の麗人……愛紗は焔耶の瞳を覗き込んだまま、詠達に聴こえないように小さく呟いた。

「お前は桃香様の顔に泥を塗るつもりか?
 調練中の鈴々、練兵中の星、文官仕事中の藍々を此処に呼べ。紫苑と厳顔殿も出来れば呼んでこい。大至急で行わなければ二度と桃香様には近付けさせんぞ」

 喉を鳴らす音がいやに大きく聞こえた。
 息をするのも億劫になる幾瞬の後、怯えた子犬のようにか細い声を焔耶は絞り出す。

「……わ、分かった」

 急ぎ走り出した焔耶は脇を通り抜け様、苦々しげに詠と秋斗を見やった。
 ほっと一息ついたのは誰であったか。愛紗も詠もそれぞれに安堵の息を漏らしている。
 黒い髪が頭を下げると同時に揺れる。
 彼は目を細めてソレを見ていた。懐かしい……と無意識に感じながら。

「客人に対し礼を失した行い、心より謝罪致します」
「堅苦しい挨拶も謝罪も必要ないわ。いきなり押し掛けたこっちにも非がある。事前に知らせてたら絶対にあいつを門番になんか立たせてなかったでしょ?」

 分かっている、と優しい声音で話す詠は切り替わっていた。
 焔耶とのことなど二の次、三の次。彼女としてはもっと……もっと抑えなければならない感情の渦があるのだから。

 少女の声を聞いてほっと胸を撫で下ろした愛紗は降ろした頭を上げ……驚愕のままその少女を見つめた。
 使者よりも彼に意識を向けるはずが、その少女の方に意識を持って行かれた。

「え、詠……?」

 白黒のコントラストが映える上下の衣服。掛ける眼鏡は知性を思わせ、深緑の髪が艶やかながら女らしさを際立たせる。
 覚えているモノとは少しだけ様相が違った。
 肩から羽織った“イヌミミフード”の愛らしいコートだけが記憶と違う。
 少しだけ相違であろうと、文官として仕事をしていた時の詠が居たから、愛紗は息を呑んだ。

――嗚呼……。

 対して、瞳の奥底に封じ込めた感情を見せないようにしていた詠が、内心に渦巻く黒い感情を見つめ直す。

――ダメだ……これじゃ……

 表情は動かさず、されどもジクジクと苛む心を抑えるので精一杯。こうして目の前に立ち自身の真名を呼ばれたことで、詠の中で膨らむ想いがあった。

 悲痛な泣き声を思い出す。
 七日七晩片時も離れず、必死になって看病をし続けていた小さな少女は泣いていた。
 何故、どう
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