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至誠一貫
第一部
第六章 〜交州牧篇〜
七十四 〜揚州騒乱〜
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 大軍ならば、確かに有効な陣形だ。
 ……だが、一糸乱れずに指揮を執れるかどうかは、また別問題であろう。
「稟。どう動く?」
「はい」
 クイクイ、と稟は眼鏡を直してから、
「まず、中央に強烈な一撃を与えましょう。鈴々、良いですか?」
「合点なのだ!」
「そして左翼には愛紗が、右翼には彩。我らは魚鱗の陣で、そのまま敵と対します」
「確かに魚鱗の陣は中央突破に優れているが……。包囲されて各個に撃破されはせぬか?」
「彩の懸念は尤もです。ただし、敵は寄せ集めに過ぎず、しかも大半は正規軍とは比較にならない賊の類です」
「しかし、もし敵に多少なりとも軍略の心得がある者がいたらどうなる?」
「そこも考えてあります。歳三様、お任せいただけますか?」
 自信ありげな稟。
 風や朱里が何も言わぬ以上、私がそれを撥ね付ける理由は何処にもない。
「良かろう。ただし、一兵たりとも逃してはならぬ戦いだ。そう心得よ」
「御意です」

 そして。
 地鳴りと共に、敵の大軍が押し寄せてくる。
「皆殺しだ!」
「官軍なぞ、ぶっ殺せ!」
 賊は勢いづいたまま、迫ってきた。
「ううー、突撃したいのだ」
「鈴々ちゃん、駄目だってば」
 どうやら、敵軍は数を恃みに、接近戦を挑むつもりのようだ。
 矢も射かけては来るが、本数が少ない為然したる被害もない。
「稟、まだか!」
「まだです。もっと引きつけて下さい」
 愛紗や彩も、手勢を抑えつつ敵を睨み付ける。
 本人らも焦れているのであろうが、今はジッと、その時を待つ。
 賊共の顔が、はっきりと識別できる距離になった。
「今です!」
「全員、伏せろ!」
 私の声を合図に、立っていた兵が一斉に地に伏せた。
 そして、
「放てっ!」
 続いて山吹の号令が響き渡る。
 ヒュンヒュンと、大量の矢が周囲に向けて放たれた。
「ぎゃっ!」
「ぐっ!」
 命中精度よりも、制圧を目的とした矢の一斉射撃。
 その為に、賊から見えないように弓兵を配置していた。
 しかも、持たせたのはただの弓ではなく、連弩である。
 必中を期さずとは申せ、これだけの至近距離で、しかも敵は密集しているのだ。
 バタバタと、矢に当たり倒れていく。
「よし! かかれっ!」
「応っ!」
 満を持して、鈴々、愛紗、彩が飛び出して行く。
「うりゃりゃりゃりゃりゃっ!」
「はぁぁぁぁっ!」
「せやっ!」
 三人を中心に、賊は次々に宙を舞い、草が血で染まっていく。
「くそったれ!」
 それをかい潜って襲い来る賊もいるが、それは私自身が率いる兵が防ぐ。
「ふんっ!」
「ぐがっ!」
 無論、兼定の餌食になるだけの事であったが。

「わーっ!」
「わーっ!」
 乱戦の最中、賊の両端から鬨の声が
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