第二章 【Nameless Immortal】
弐 見えぬ分水嶺
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相手の右の眼が淡く妖しく輝く。
目を走る傷痕が浮かび瞳が紫紺に変わっていく。
女性が彼に問いかける。
「あなた、武芸者よね」
当たりだ。成績は良くないが武芸者という事で彼は贔屓的に採用されていた。
ほんの一、二分の間で不審者から異常者へと相手の評価が変わる。
腰の剣帯へ手を寄せていた彼は相手から視線を逸らさない。
未だに非武芸者の女性など容易く取り押さえられると彼の判断は変わっていない。
「だったら? 無駄な仕事はしたくない。無謀さが分かるなら帰ってくれ。今なら見逃すから」
「聞いただけよ。多分、そっちの方がいいもの。では――」
女性の瞳の輝きが増す。
たった一言の優しい呟きが空間に響いた。
「――お休みなさい」
そして彼の意識はそこで途絶えた。
倒れた警備員の横を通り少女は通路の奥へ向かい地下へと入って行く。
入ってしまえばロクな認証の類もない。
名前で気付かれたと思って入り口では出さなかったが、念のためにとバイトの一人から拝借した通行証はどうやら必要無さそうだ。
不意に少女の脳裏にやや大人びた女性の声が響く。
『主よ。さっきのは演技か』
「そうだよお姉ちゃん。変えた方が良いと思ったから」
『ううむ、しかしのう。何故あのように露骨な』
「店長を真似ただけ。変だった?」
『ばいと先の彼奴か……感想に困る。僕としては主にこそ女子らしさは望ましいが、正直怖気が』
「煩い」
鉄柵で覆われた昇降機の前で少女は立ち止まる。
「見てきて」
『使いが荒いのう』
少女の傍に光体が現れ、それは半人半獣の女性の姿を取る。
人から獣に成る途中で止まったかのように狐に似た獣耳と尻尾を生やした女性だ。 女性は少女に言われるまま地下へと行き、少しして戻ってくる。
『今なら誰も居らんぞ』
二人は昇降機に乗り込み更に地下へと降りていく。
『そういえばよかったのか? 先ほどは呑気な会話をして』
「周囲の確認も必要だったから。それにあれなら、直前の記憶は飛ぶがあやふやになる。平気だよ。それと目立つから消えて」
『ぬぁ!?』
尻尾を引っ張られた女性が悲鳴を上げる。
女性の光体が少女の体に重なるように消えていく。
『一応聞くが、言うの僕でいいのだな?』
「同族でしょ。私で伝わるとも限らない。汚染獣見逃した先輩から言ってあげて」
『……辛辣よな。信が軋む』
一番下まで着いた少女は昇降機から降りる。
機械油と触媒液が混じった空気が充満する中、最低限の照明が都市の内部を照らし出す。
「案内お願い、ベリツェン。人の気配も教えて。私も意識を張
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