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後ろにいる影
後ろにいる影
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ると彼は僕に声をかけてきた。
「何でしょうか」
「隣、あいていますか」
 そんなことか、と思った。とりあえず彼には素直に答えることにした。
「ええ」
「それじゃあ」
 彼はそれを受けて横に座ってきた。僕達はカウンターで三人になった。彼は席に着くと後ろをチラリ、と見た。
「まだ来ていないな」
 彼は後ろに何もいないのを見ると安心したように言った。それが僕にはまたえらく不思議だった。
「あの」
 あまりにも気になったので声をかけた。
「何かあるのですか?」
「といいますと」
 彼はそれを受けて僕に声をかけてきた。みればわりかし端整な顔立ちの壮年の男性であった。しかし皺が異様に多かった。髪も白いものが混じり硬い質のその髪に霜の様にあった。そしてその髪も何処か精彩がなかった。彼は黒い目を僕に向けてきた。
「いえ、後ろを気にかけておられるので」
「何かあるんですか」
 マスターも尋ねてきた。それだけこの人の様子は何処か妙に思わざるを得なかったのだ。
「ええ、ちょっとね」
 彼は暗い顔をして僕達に応えた。
「事情がありまして」
「事情が」
「はい」
 彼は答えた。
「私はちょっと追われる身でして」
「追われているのですか」
「ええ。それも厄介なのに」
「厄介なの、ですか」
 マスターはそれを聞いて少し気付いたようであった。
「警察とかそういったものではないようですね」
「はい。警察ならどれだけよかったことか」
 彼はそう言った。僕はそれを聞いてやはり妙に感じた。警察ですらそう言えるとは一体何か。
 どうやら罪を犯したわけでもないようだ。少なくとも警察に追われていないということはそうなのだろう。僕はそれを聞いて興味を抱かずにはいられなかった。
「もし」
 僕はあらためて尋ねた。
「一体誰に追われているのですか」
「それは」
 彼はそれを離そうとしなかった。顔をややそむけて答えるのを拒否してきた。
「ちょっと言えないです。貴方達に迷惑がかかりますから」
「迷惑ですか」
 マスターはそれを聞いて困った顔をした。
「御客様、この店は来る者は拒まず、です」
 それがこの店の流儀であった。このマスターは酒が好きな者なら誰でも喜んで迎え入れる人なのである。
「そして私はこの店に入って来られた方なら誰でも御守りします。それが私の流儀です」
「貴方の流儀、ですか」
「はい」
 マスターは答えた。
「ですから御安心下さい。何かあれば安全な場所まで案内致しますので」
「そう言って頂けると有り難いですけれどね」
 それでも何か不安なようであった。
「相手が相手ですから」
「本当に誰なんですか?」

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