第一部
第六章 〜交州牧篇〜
七十三 〜碧眼児〜
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来ぬ……。
「……お、おい。愛紗」
と、星が不意に声を震わせた。
「にゃんら? ごひゅひんさまなら、わたさないにょ!」
「い、いや……お前の隣を見ろ? 何か、いるぞ……?」
「……ふえ?」
愛紗が、視線を動かす。
「うにゃー! 恨めしやー、なのだーっ!」
「……ぎ……ギャーッ!」
途端に、金切り声を上げ、飛び起きる愛紗。
そのまま、脱兎の勢いで部屋を出て行った。
「にゃはは、相変わらず、愛紗はお化けに弱いのだ」
「……鈴々か」
何処から持ってきたのかは知らぬが、海藻を鬘のように被っていた。
ふう、危うくくだらぬ事で、再び黄泉路に旅立つところであったな。
「主。私の機転が利きましたな」
「……星。よもや、責任がない、と申すまいな?」
「は、はて。何の事やらさっぱり」
「惚けても無駄だ。明日より暫し、禁酒を命ずる」
みるみるうちに、顔面蒼白になる星。
「お、お待ち下さいませ!」
「駄目だ。どう見ても、愛紗がああなったのは、お前が調子に乗って呑ませたからに他ならぬ」
「そ、そんな……」
崩れ落ちる星。
……自業自得だ、少し反省させる他あるまい。
だが、機転の礼もせねばなるまい。
「星」
「……は」
「その代わりではないが、今宵は私の傍にいるがいい」
「ま、真でございますか!」
ずい、と詰め寄ってくる星。
「二言はない。……皆も、それで良いな?」
不承不承と言った風情ながら、稟らは頷く。
「心違い致すな。これは、礼代わりだ」
「それでも構いませぬ。……やはり、主は素晴らしき御仁だ」
全く、現金な奴だ。
……まぁ、それでこそ星なのだがな。
全ての準備を整え、数日後には我らは呉を後にした。
一路、南へと向かう。
最短距離を行くならば、揚州から荊州を経る事になる。
だが、疾風と風が、聞き捨てならぬ報告をもたらしていた。
「益州牧の劉焉殿が、密かに交州を切り取る算段を行っているとの噂が流れているようです」
「それだけではないのですよ。荊州牧の劉表さんが、交州を狙っているとの噂もありまして」
「どういう事だ。州牧には、他の州を侵す権利などあるまい?」
「いえ、先般の曹操殿と同じ名目を利用する気なのでしょう」
と、稟。
「救援、という事か?」
「はい。交州は僻地、つまり他国と接している地です。異民族が度々侵入する、という事です」
「なるほどな。そして、州牧である私は未だ赴任しておらず……という事か」
「ええ。一時的にせよ、実効支配すれば、交易で利益を上げられますから。それに、庶人を保護するという名分があれば、朝廷から咎め立てされる事もありませんしね」
「何だか、空き巣みたいな連中なのだ」
「鈴々の言う通りだな。全く、卑劣な奴らばかり
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