第一部
第六章 〜交州牧篇〜
七十三 〜碧眼児〜
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時代、私が知る食材が手に入るのも不可思議な話だが、今更気にしてもどうにもなるまい。
僅かに塩をつけ、口に運ぶ。
「……うむ、美味い」
衣の厚さも程良く、何より素材の旨味が損なわれていない。
これならば、江戸で店を開いても十分繁盛する事は請け合っても良い。
「エヘヘ。良かったです」
「朱里。それは何ですか?」
稟達が、興味を惹かれたのか寄ってきた。
「天麩羅、って料理です。ご主人様に教えていただいたんです」
「それは興味深いですねー。お兄さん、風にもいただけますか?」
「無論だ。朱里」
「はいっ!」
朱里と愛里、心底料理が好きなのであろう。
次々と伸ばされる箸を、嬉しそうに眺めている。
「殿。これもお一つ」
「む。いただこう」
差し出された箸を、何の気なしに咥えた。
……ほう、この味は。
「これも美味い。里芋の煮っ転がしか」
「はい」
こちらも、笑顔の彩。
醤油がない故、完全なる再現は無理かと思ったが……彩の奴、かなり試行錯誤したようだ。
……ふと、背筋に寒気を感じる。
「彩。……あなた、少し自重する気はないのですか?」
「風もそう思うのですよ。彩ちゃん、お兄さんをずっと独り占めしていたのですしねー」
「そうら! ごひゅひんさまをよこすのりゃ!」
呂律が回っておらぬぞ、愛紗。
「何だ? 私が作った物を、殿に味見していただいただけではないか」
「だが、それならば主に勧めるだけで良いではないか。お主だけ、新妻気取りではないのか?」
「まぁ、待て。彩にも他意があった訳じゃないだろう?」
「ひゃやて! おまえはくやしくにゃいのきゃ!」
……うむ、確かに収拾がつかぬな、これでは。
「あはは……。なんか、本当の家族みたいですね」
家族、か。
……久しく、そのような事も考えなかったが。
だが、山吹の申す通り、我らは家族同然なのであろうな。
ならば、さしずめ家長……とも言うべき私は、それを収めねばならん。
「これ、喧嘩は止さぬか」
が、どうやら火に油を注ぐだけだったようだ。
「……歳三様。申し訳ありませんが、少し黙っていていただけますか?」
「そうですねー。元はと言えば、お兄さんがいけないのですよ?」
「しょんなごひゅひんさまには、おしおきにゃのれす!」
あっという間に押し倒され、唇を奪われてしまう。
口の中に、何か生暖かい物が流れ込んできた。
……これは、酒か。
「にゅふふー。くちうつしなのれすー」
「ああっ! あ、愛紗! 何をするのですか!」
「おい! 自重しろと言っておいて、自分はそれか! 殿から離れろ!」
「いやりゃー。もう、はなれないのりゃー」
酔っている癖に、何と言う力だ。
押し退けたくとも、びくともせぬぞ。
息が出
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