暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
掛け違えた祈り
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 たまに物を隠されたり、知らない場所へ連れて行かれたりした。
 それはそれで楽しかったけれど。
 だからといって、決して彼の言葉を受け入れようとはしなかった。

 ……これまでは。

「貴方は……私に、何を望むの?」

 誰も居ない虚空を見上げて問う子供に、声は答える。
 他の誰も答えなかった子供の問いかけに、男の声だけが答えた。

『俺の望みは、お前自身』
「私?」
『お前が持つ力、お前のすべてが欲しい』

 胸の奥が どくん! と、強く脈打つ。

 実の親も、育ての親も。
 数少ない友人も、これから先の生き方も。
 何もかも全部失った子供を、それでもなお欲しいと告げる声に。
 どうしようもなく喜びを感じた。

 良くないモノだ。
 触れてはダメ、求めてはいけない。
 信じたら、絶対酷い目に遭う。殺されるかも知れない。
 応えちゃダメ。

 …………ああ……、でも……

 もしも本当に、今の、この悲しい世界を変えられるなら。救えるのなら。

 殺されても、良い。
 嘘でも自分が欲しいと言ってくれた、彼になら。
 孤独から護ってくれていた、彼になら。
 それでも、良い。

「どうすればいいの?」
『契約を。お前に世界を与えよう。お前は唯一の女神として、願いのままに世界を導け。成就の対価は、お前のすべて』

 なんて甘美なささやき。
 なんて非情な誘惑。
 どちらにしても、欲しいと思うものばかりが提示されているのに。
 それでもなお『否』と断ち切れる余裕など、子供には残っていなかった。

 答えは、一つしかない。

「私は……私はっ! 誰一人として、不当に殺されたりしない、奪われたり奪ったりしない、優しい世界が欲しい! 争いなんか必要ない、生命ある者みんなが優しくいられる世界が欲しい!」

 一時でもその場所を私にくれるのなら、殺されたって構わない!

 子供は叫ぶ。
 世界が平穏な循環に包まれますように。
 誰一人として、不当な悲しみに襲われたりしませんように。

『お前に名前を。俺を呼べ……()()()

 『アリア』
 名無しの子供に与えられた名前。
 偽りの創造神を指し示す、名前。

 アリアは一度ぐっと目蓋を閉じ、唇を噛みしめた。
 立ち上がり、涙を振り払って視界を広げ、廃墟と化した神殿を見据える。

 昔、人間と神々を繋ぐ(かんなぎ)の一族が住んでいた場所。
 幼いアリアが、優しかった老夫婦に拾われた場所。
 ここから始める。
 ここから変えていく。
 創造神アリアは、ここで声を上げる。


 どうか、世界中の生命が、慈しみと優しさで満たされますように。


「私は創造神
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