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八神家の養父切嗣
十七話:覚悟と理想
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見て言われた言葉に頭が真っ白になる。
 言葉を探すが何も出てこない。言い訳をすることすらできない。
 まるで、エラーを起こした機械のように―――当たり前の人間のように固まってしまった。

「今月ぐらいから、おとんが心の底から笑ってる姿を私は見てないんよ」
「そ、そうかな? 気のせいじゃないのかい」
「気のせいなわけないやん。だって私は―――おとんの娘やよ」

 ごく自然に、しかし、天使のような明るい笑みが切嗣に向けられる。
 男の体は機械として動いていた。
 血潮は氷で、心は人間なれど表に出すことは許されない。
 幾度の救いを行おうとも犠牲が絶える事はなく。
 
 涙は枯れ果て、僅かな希望すら抱かない。
 ただの一度も、真に彼の願いを理解する者など居なかった。
 彼の者は一人、死体の丘で正義に酔いしれ、朽ち果てるのみ。
 故に自身すら、心の内を知ることはない。
 だというのに―――


「私を見るおとんは特にぎこちなかったんよ。つまり、私は―――もう長くないんやろ?」


 ―――この娘は父の本当の心の苦しみを理解した。
 必死に目を背け続けて来た自身の感情。娘の死を認めたくないという想い。
 何度も口に出してそれを自身に納得させようとした。
 嘘だからと、騙すためだと甘えて声に出して伝えてきた。
 それこそが本心だということから目を逸らして。
 
 殺すために近づいたのにもかかわらず、殺す準備を整えているにもかかわらず。
 切嗣の心ははやての死を欠片たりとも認めようとしていない。
 それを本人からまざまざと突き付けられた彼は、糸が切れたように椅子の上に崩れ落ちる。
 一度直視してしまえばもう目を逸らせない。人間としての願望は彼を捕えて離さない。

「よう考えたら、検査とかだけで入院ってのも変やしな」
「はやて……君は今、麻痺が全身に回っている途中だ」
「そっか……迷惑かけてごめんなぁ」

 寂しそうに笑うはやてにそんなはずはないと言ってやりたかった。
 泣きながら再び抱きしめてやりたかった。
 だが、それをすれば自分はもう、“正義の味方”にはなれない。
 ただ、己の在り方を呪う以外に彼にできることはなかった。

「死ぬのは……何と言うかそんなに怖ないんよ。でも、みんなと会えなくなるんわ、怖い」
「きっと……それが死ぬってことなんだと思うよ」
「お父さんとお母さんはお星様になってもーたけど、私もお星様になったらおとんとみんなのこと見守っとくよ。特におとんはだらしないしなー。それに、私がおらんかったら美味しいご飯が食べられんし」

 自分が死ぬという会話をしているにも関わらず、切嗣達の心配をするはやて。
 利己というものが存在しないわけではないだろうが明らかに薄い。
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