暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアート・オンライン‐黒の幻影‐
第3章 黄昏のノクターン  2022/12
24話 船匠の願い
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イプを口から落とすのではないかとさえ思えるほどに呆けてしまう。


「私達が材料を取ってくる。そしたら、造ってくれるんだよね?」
「材料が揃えば、な」
「絶対に揃えるよ。だから、おじいさんも最高の船を造ってね!」
「………フン」


 受諾とも、拒否とも取れないような気難しい老人の返答の後に、老人のクエストアイコンのマークが《!》から《?》に変化。ヒヨリの前にはクエストの情報と受領の確認を行うウインドウが出現する。クエスト名は《船匠の願い》。俺の記憶にはない、正真正銘の正式サービスから実装された新規クエストだ。
 そっぽを向いて酒を呷る老人を一度見遣り、ウインドウでクエスト受領を済ませる。そんなヒヨリの動作が終えるのを見計らうように、老人――――《ロモロ》は低い声を喉から押し出した。


「………先ずは南東の森に行って、防水処理に必要な熊の脂を取ってこい。ただし………ヌシ熊に出くわしたら逃げたほうが身のためじゃぞ。ヤツからなら、最高の脂が取れるじゃろうがな」
「ヌシ熊?」


 ロモロ老人の言うヌシ熊という単語を、ヒヨリは首を傾げながら復唱する。最高の脂などという単語から察するに、この《お使いクエスト》は納品するアイテムにグレードが存在するらしい。当然、上位のグレードのアイテムを入手した方が、より良い報酬を得られるのは自明の理というもの。しかし、言わずもがなこの手のやり込みは難易度を吊り上げる要因になるわけだ。


「馬鹿でかいやつだ。かなり強いし、そもそも………」
「それを倒したら最高のお船の材料が貰えるんだね!?」


 ヒヨリの問いに、ロモロは一切の反応を示さない。自身に向けられた言葉であると認識していないからか、それとも説明を済ませれば口を鎖して《座して待つ》つもりなのか、パイプから煙を漂わせるだけである。


「………話を聞く限り、そうだな。だけど良く考えてくれよ?」
「分かった! おじいさん、最高の脂、ぜったいに持ってくるから! おじいさんも最高の船造ってね! 約束だよ!」


 ヒヨリの言う「分かった」とは、俺の考えているそれと指すものが違うのだろう。困難を度外視しているという割り切りではなく、そもそも困難であることを認識さえしていないような気さえする。相棒が、いついかなる時であろうと前向き過ぎて胃が痛くなる。
 そして、善は急げと言わんばかりにロモロ宅を飛び出したヒヨリを追って屋外へ向かう。お得意のAGIにモノを言わせるような独断専行は今日も冴え渡り、ドアを抜けた時には数十メートル先の船着き場で流しのゴンドラを確保していたほどだ。既に会計まで済ませ、乗り込むだけとなった船を確保したヒヨリは、老人と交わした約束――――一方的ではあったが――――に対する意欲と、迅速な自身の仕事ぶりを
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