第一部
第六章 〜交州牧篇〜
七十二 〜弓腰姫〜
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複数の者が目撃しているのだ」
「拐かすとは、随分先走った結論を出すようだが。そもそも、拐かすのなら、このような場所に留まる必要はあるまい?」
「夜を待ち、抜け出すつもりだった、とも考えられるな。とにかく、一緒に来て貰おうか」
「その必要はないし、そのつもりもない。シャオを探していたのなら、連れて帰るが良い」
「……な。……貴様、真名まで穢すとは、余程黄泉路に旅立ちたいようだな?」
少女が、剣を抜いた。
チリン、と鈴の音がする。
呉の者で、鈴……そうか。
「お前、甘寧だな」
「ほう、私の事を存じていたか。ならば、その名を確と脳裏に刻んで逝け!」
どうあっても、引き下がるつもりはないらしい。
こう、話が通じぬのでは、やむを得まい。
私は、兼定に手を伸ばす。
「思春ってば!」
「小蓮様。この場は私にお任せを」
「……甘寧さん、でしたか? 剣をお引きなさい」
山吹が、スッと前に出る。
「何だ、貴様? 邪魔立てするなら、貴様も道連れにするまでだぞ」
「この御方を、何方か承知の上での狼藉ですか? ならば、あなたもただでは済みませんよ?」
「ほう。何者だと言うのだ?」
「交州牧、土方歳三さまです」
少女の表情が、微かに蠢く。
が、それもほんの一瞬であった。
「そんな筈がなかろう。土方殿と言えば、数々の武功を立てられた、義を重んじる方と聞いている。貴様らのような、人攫いがその名を騙るとは、万死に値するぞ」
「山吹、どうやら無駄のようだ。下がれ」
「……そのようですね」
得物を抜こうとする彩を手で制し、前に出る。
「甘寧」
「何だ? 今更命乞いか?」
「そうではない。呉に、私の麾下であり、仲間でもある者達が滞在しているであろう?」
「…………」
答えはないが、構わず続ける。
「私に手をかければ、その者らは黙ってはおらぬぞ。お前だけではない、そこにいるシャオも、いや睡蓮や雪蓮とて無事では済まぬやも知れぬ」
「貴様! 言うに事欠いて、睡蓮様達の真名まで穢すか!」
「……何故、そんなに頑ななのだ? 当人から預かった以上、真名で呼ぶのが礼儀ではないのか?」
「それは、当人から預かった場合だけだ!」
「そうね。わたしが構わない、って預けたんだけどなぁ」
そう言いながら、窓から入ってくる雪蓮。
……此処は、確か二階だった筈だが。
「雪蓮様! 何故此処に?」
「んー? そうねぇ、勘かしら?」
「……そうですか。ですが、その前にこの者を」
「思春。だから言ってるでしょ、真名を許したのも事実だし。その男は、確かに土方歳三よ?」
「…………」
甘寧は剣を収め、その場に膝を突いた。
「申し訳ございません。ご無礼は、如何様にもお詫び致します」
「歳三、思春にも悪気はなかったと思うの
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