相似で逆接な在り方
[9/10]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
出す汗が止まらない。
点と点が繋がる。星からの忠告と、劉璋からの情報があってこそ、この細かい報告書が事実を伝える。
「あ、愛紗ちゃん……直ぐに、準備しよう」
声が震えていた。脚も震えていた。立っているのに倒れてしまいそうな程、胸から不安が溢れて脳髄を侵食していく。
沸き立つのは恐怖。僅かな勇気を振り絞って自身の罪に立ち向かうしかない。
――お城? 違う。私達を敵として見てるなら、あの人はそんなまどろっこしい事をしない。
……昨日星さんが言ってたなら、自身での行動を主にするあの人は……
桃香は星の言葉を間違わない。そして……彼が何をするかも、恐ろしいから間違わない。軍師よりも将よりも先に、桃香はその男の行動をおぼろげに読み切っていた。
何かを行う時……桃香は自分で動きたいと望んでも動けない。彼は……動きたいと思うと好き勝手に動くのが常。
そんな彼を羨ましく思っていたから、桃香は彼が行う不可測の道筋を読めた。
「だ、大丈夫ですか? 何を準備すると……」
「お茶とお菓子。それと藍々ちゃんをお城から呼び戻して、焔耶ちゃんをお城に帰して」
「何を……」
「星さんも呼んで。鈴々ちゃんも呼んで。出来れば紫苑さんと厳顔さんも呼んでほしい」
「何故――」
「はやくっ」
必死な声を出し、愛紗の驚いた表情を見て直ぐバツが悪そうに俯いた。
桃香の焦る姿に動揺を隠せない愛紗は、まだ彼女の不安の理由を把握できていなかった。
「ご、ごめん……」
「いえ……」
沈黙。
居辛い空気にどうしようもなく、気を引き締めた愛紗は優しい声で尋ねかけた。
「桃香様、何があるのですか? いえ、何を不安に思っているのです?」
「……るの」
「え……?」
小さな、小さな声。聞き取れずに聞き返す。
顔を上げた桃香の目には……悲哀と悔恨の色が浮かんでいた。
「来るの……曹操軍の使者として、秋斗さんが……ううん……“黒麒麟徐公明”がこの屋敷に……来る、と思う」
そよそよと優しい風が窓から吹き込む。
茫然と立ち尽くした愛紗はしばらくそのまま動くことが出来なかった。
大変なことが起こる……星の言葉が頭に響く。
嗚呼、確かに大変なことだ。未だ心にしこりを残している彼女達にとって、過去からの弾劾は首元にそのまま届く刃となる。
戦場には用いられない、心を切り裂く言の葉の剣は黒き大徳がいつも使う武器。矛盾を突き刺す理の槍は黒き大徳が振るっていた諸刃の凶器。
どちらもが遂に、彼女らに向けられるのだ。
向けまい、向けまいと彼自身が抑えていた刃が。
丁度良すぎる時機を以って、彼女達の部屋に客人の来訪を知らせる兵士が駆けてきた。
慌てた様子で為された報告はよろしくな
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ