相似で逆接な在り方
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ない策も、ほとんど“彼”と変わらない。秋斗の瞳の奥にナニカへの遣り切れなさを見つけて、昔の彼に似て来たとも感じた。
自分達を鼓舞した覇王とよく似ていた。初めから曹操軍に来ていたら、きっとこんな彼が出来上がっていたのだろうと思い至る。
「隙を見せる方が悪いのさ。今は平穏な治世などではなく乱世……街がどれだけ平和に見えようと、人々がどれだけ安寧だと嘯こうと、たった一つの不可測で崩れ去る」
勿体付ける彼。早く教えろという様に睨み付け、不機嫌を全面に押し出して、詠は唇を尖らせた。
「クク、俺達はただ、“劉備がしたいことの逆をすればいい”」
片目を細めて詠を見つめた。これだけで分かると信頼して。
ハッと息を呑んだ彼女の顔が青ざめて行く。目の前の男が、やはり異端だと再認識した為に。
「……沢山死ぬわよ」
「間違いない」
「……泣く人が増えるわ」
「当然だな」
「……罵られるのは確実でしょ」
「ごもっとも」
「……西涼に、間に合わないかもしれない」
「俺に任せたんだ、華琳だって是非も無しと呑み込むさ」
一応カタチだけは止めてみた。カマかけも交えて聞いてみた。
詠自身、彼が出した答えの有用性を瞬時に理解してしまったから、それ以上は止める気も無く。つつがなく返ってくる答えに、彼の策を確信する。
「じゃあ今から劉備に会うのって……」
「ああ、有体に言えば……」
一呼吸の間を置いて、ゆっくりと吐き出される吐息。
乱世を喰らう化け物の一人は、漸く作り上げられた平穏な大地を喰らおうと口を引き裂いた。
「宣戦布告ってやつだ。
別に……此処で潰せるのなら叩き潰してしまっても構わんだろ?」
†
心地よい日光が差し込む昼下がり、そよそよと頬を撫でる風が窓から流れ込み、仕事の鬱屈とした空気を僅かに和らげてくれる。
此処は劉璋が桃香に貸し与えた屋敷。城に住むのはさすがに許されないと部下達が反対した為、すこしばかり大きすぎる屋敷を貸したのだ。
部屋の主である桃香は大きく伸びを一つ。今日も劉璋の部屋に半ば強引な押しかけを行った後で、通常業務の書類に目を通していた所である。
義勇軍時代に比べれば随分、書類仕事も板についてきた。さらさらと筆で字を書き連ねる姿は、伸びた背筋からも分かる通りに経験という力を表している。
――初めは書類仕事から逃げたくて仕方なかったんだけどなぁ。
ふと、桃香は考える。
いつの間にやら書類相手の仕事を苦に感じなくなっている、と。
頭を使って改善案を捻り出すよりも、街に出て実地調査等を行っている方が好き……今でもそれは変わらないが、机の前で居る時間も案外心地よく感じてもいる。
――
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