第二章 【Nameless Immortal】
壱 バカばかりの日
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が見えていた。それが今は下を向いている。
不意にレイフォンの心に靄がかかる。胸に得体のしれぬ気持ち悪さが沁み出す。
そういえばあの日、あの時。自分は何を考えていた。
「知らなかったはずがない。なのに何故だ。何故お前は――」
「長くなるなら帰っていい?」
突然の声にニーナの言葉が止まる。項垂れていた視線が声の主に向けられる。
僅かに押されて止まっていたレイフォンの体が横へ動く。その衝撃に意識が取られ靄が薄まる。
ずっと沈黙を保っていたアイシャがニーナを見ていた。
「袋、持っているのも疲れる。下ごしらえもある。それ、長いの?」
「お前何を……」
「下らない愚痴を聞くほど、暇じゃない」
止める間もなくアイシャは吐き捨てる。
「百人程度死んだだけで煩い。どうでもいい」
「貴様……」
ニーナの瞳にはっきりと怒気が浮かぶ。握った拳が戦慄く。
あと一歩距離が近ければ胸倉を掴まれていただろう。気の弱い人間なら逃げ出したくなる威圧感だ。
だがその視線を真っ向から涼しい顔でアイシャは受ける。
「『武の理法の修練を通し、都市の守護者たらん意識と技量を有した存在の育成』だっけ」
「……それは」
ニーナの威圧感が僅かに治まる。
何の事だか分からないレイフォンの傍で近くに寄っていたクラリーベルが呆れて呟く。
「確か、武芸科理念の最初の一文でしたっけ。よくあんなの覚えてますね」
レイフォンにとっては初耳の事実だ。
武芸科の、ということは他の科にもあるのだろう。だが欠片も見た覚えがなければ聞いた覚えもない。
「こっちは一般教養科、そっちは武芸科。自分で選んだはず。臨時で動く人たちの場所だって、知ってたのに」
「それは……だが、だからといって何もしなくていい理由には」
「クラリーベルから聞いた。二人が武芸科じゃない事、納得したって。それ、自分たちだけで平気だと思っていたことのはず。被害が出たら教養科相手に責任転嫁?」
「ッ、そんなつもりはない! ただ私は理由が……武芸者であるならばせめて――!!」
「知らないよ。私たちはあなたじゃない。あなたの都合を押し付けるな」
その言葉の何が琴線に触れたのかは分からない。だがニーナの様子が明らかに変わる。
愕然とした表情のニーナから威圧感が消える。戦慄く拳はそのままに再び視線がそらされる。それはどこか咎められ怯える子供の様でもあった。
空いていた一歩の距離をアイシャが詰める。
「百人程度で煩い。どっかいってよ」
「……百人、程度。その言い方……お前に死者の何が……」
「都市が亡んだわけでも無いの――にぃゅッ」
「はいそこでストーップ」
背後に忍び寄ったクラリーベルがアイシャの体を引き寄せて首
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