第二章 【Nameless Immortal】
壱 バカばかりの日
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悪いなら寮に帰ってもいいんじゃないですか。暫くすれば戻りますよ」
「それは経験則かレイフォン」
「多分そうなのかな。よく覚えてませんけど。それと時間平気なんですか?」
「……あ、ああ。まあな」
曖昧に濁したニーナの瞳がレイフォンを……正確にいうならば、いつも通りの三人を見る。
「お前たちは変わらないな」
「あのて……あのくらいの襲撃はグレンダンではよくありましたから」
言い直したクラリーベルにニーナが苦笑いをする。
ニーナがポツリと呟く。
「よくあった、か。そうか。やはりそうなのか」
「ニーナさん?」
何となく、本当に何となくレイフォンは声をかけた。だがそれが届いたのかはわからない。
クラリーベルを向いていたニーナの視線が外れる。何かを見るわけでもなく焦点も合わせず、ただぼんやりと足元のタイルを見やる。
視線が、俯く。
「なら……」
――ああ。そうか。
この中で一番ニーナと付き合いの長いレイフォンはいち早く気づいた。
最初にこちらを見て顔を強張らせたのも。今までの会話や問いかけも。
この言葉を言うためだったのだと。
「お前たちがもっと早くに出ていれば、被害は少なかったんじゃないのか」
あの日からずっと心の中にあったのだろう。
瞳を逸らしたのは自分の顔を見られたくないのか、それとも自分を抑えるためか。
巡り続けた思いは時間と共に冷やされ集い言の葉の滴となる。心の露として静かに吐き出される。
隠すことをやめ吐露したニーナの言葉が滴れ続けていく。
「たった三割の敵を削るのに何時間もかかった。三割では足りない損傷が出た」
「甲殻を砕くために何度も振り下ろした」
「怒声と悲鳴の差が分からなかった」
「必死だったよ。ただ必死だった。疲れさえ意識したら死ぬと思った」
凄く疲れた。そう乾いた声で絞り出すように聞こえた。
滔々と静かに蓋から毀れ続けていく。
「けど、お前たちは慣れていたんだろう。何度も……」
「一匹何秒だ。百を削るのに何分だった。一つでも怪我をしたか」
「お前たちが出ていればもっと。もしかしたら誰もと、そう」
「もしかしたら……」
その声には胎の底から零れたような想いが籠っていた。どうしようもない何かを悔恨していた。
ニーナの知る誰かが取り返しのつかない状態になった。
想像にすぎない。だがきっとそうなのだろうとレイフォンは根拠もなく思う。
さてどうしたものかとレイフォンは困る。
俯き垂れた髪でニーナの目元が隠れる。それを見てああ髪が長くなっているなとレイフォンは今更に気付いた。
シュナイバルで別れたあの日。ちぎった様に無造作に切られていた髪は今よりも短かった。もっとよくニーナの顔
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