第二章 【Nameless Immortal】
壱 バカばかりの日
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風の音に混じって遠くから重機の発する低音が聞こえる。
今頃、縁外部近くには多くの人員や機械が動いているのだろう。
坂を登りきった小高い丘に立地する此処から見れば、僅かにだがクレーンの頭が見えた。暫くすればその周辺は更地になるだろう。
幼生体の襲撃から数日。ツェルニでは破壊された建造物の修復作業が行われている。軽微ならば修復し、危険だと判断されたものは人の手で止めを刺されている。
人づてに聞いた話だが、建築科の生徒たちはその破壊行動を楽しんでいるとか。レギオスという限られた空間である以上、建造も破壊も出来る空間は限られ、それを行う時期も決められている。
今回のことで制限を気にせずに出来ると、彼らにしてみれば不運であると同時に幸運でもあるのだろう。
もっとも、他の学科の生徒たちにとっても同じとは限らないが。
一過性のものではあるが、ツェルニではバイトの求人が増えていた。
奇異な事件があったとは言え都市は平常通りに動く。寧ろ平常に戻すための作業が増えただけ労力な労働力は増している。
けれど身体、精神的な理由による欠員で人が足りなくなった分野が発生していた。
そんな理由で、日常の作業から普段では余り見ない仕事まで、求人が平時よりもやや割高で張り出されていた。
そのお零れに乗りレイフォンはバイトをしていた。ルシルに誘われた仕事で、もう一人、ルシルの友人である男性も含め三人での参加だ。
うっすらと汗が浮かぶ額を風が撫ぜ、前髪を揺らす。
「よう、もうそろそろ休憩終わりだぞ」
飲んだスポーツドリンクの口を締めているとルシルから声をかけられる。
汚れてもいいように運動着のレイフォンに比べ、ルシルは制服姿のままだ。もっとも、これは二人がしていた仕事の差でもあるのだが。
「随分涼しそうだねルシル。汗一つかいてなさそうで」
「唐突な嫌味か? まあ、そこは仕事を持ってきたのがオレということでだな」
「そっちのツテだし多少は分かるよ。でも僕が荷物置き場の整頓で汗かいてる間、そっちは空調効いた部屋で書類の整理なのはどうなの?」
三人が来ているのは養殖科に属するある研究室所有の敷地だ。建物内の荷物が都震で崩れ、その整理要員が必要とされていた。知人がそこにいたルシルが話を聞き引き受けたというわけだ。
空調のない荷物置き場でレイフォンは研究室の人と協力し、散らばった道具を整理整頓していた。
その傍らルシルは居室で椅子に座り散らばった書類の整理整頓をしていた。
事情はわかるが、釈然と行かないものがでるのは仕方ないだろう。
ちなみに、もう一人はレイフォンと同じ荷物整理分担だ。
「頭脳派と肉体派で分担だな。何もおかしくないな」
これみよがしにルシルが眼鏡を指で押し上げる。
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