魔女の足跡
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かった。拷問から救うことはできたが裁判からは救うことができなかった。バックスは軍を率いていた。それで村そのものを魔女の村にしようと企てようとし、そして軍で村を焼き払おうとしていることに気付いたからであった。何処までも強欲で残忍な男であった。
こうして老婆は裁判にかけられることになった。牧師が老婆を弁護しようとした。だがこれはバックスによる恫喝でできなくなってしまった。
「魔女を弁護する者もまた魔女だ!」
これが魔女狩りであった。弁護する者の存在すら許されないのだ。そして裁判は形だけのものである。これもわかっていることであった。バックスは善良な牧師を黙らせると今度は証人達をでっちあげることにした。事前に彼等に金と脅迫を贈ることも忘れなかった。
ある者は言った。
「バームが何やら呟くと手から血が流れた」
と。見ればその手の平にはナイフによる切り傷があった。
またある者は言った。
「老婆が使い魔を操っている」
と。それは村の至るところにいる烏達であった。
そしてまたある者が言った。
「老婆の家に巨大な人影が入るのを見た」
と。完全な嘘であった。
全てがこうした調子であった。しかもバックスは裁判の間中ずっと裁判官の側に席を置いていた。そしてその席から裁判官に何かと話をしていた。呆れたことに密かに金まで渡していた。
老婆はそれを全て否定しようとした。だがバックスは証人の言ったことは全て正しいとし、老婆は嘘をついていると一方的に言うだけであった。最初からまともな裁判なぞする気はなかったのだ。しかも彼は途中から老婆の発言すら禁止してしまった。まさに魔女狩りであった。
そして裁判は実に何事もなく進んだ。判決はもうわかっていることであった。
「火炙り」
これしかなかった。魔女は火炙りになる。これは魔女狩りにおいて決められていることであった。それより前の拷問で命を落とす場合も多々あったが生きていてもこれである。なお無実の場合も拷問の跡は残る。これで命を失った者も多い。
皆わかっていたことであった。これには特に驚かなかった。だが別のことで驚くこととなった。
判決が出た直後のことである。不意に老婆が立ち上がったのだ。そして叫びはじめた。
「思い知るがいい!」
老婆はバックスを指差して叫んだ。
「この恨み、死んでも忘れないからね」
その声は老婆のものとは思えない程大きかった。そして顔も声も鬼気迫るものがあった。
「予言しておくよ、あんたはもうすぐ死ぬ!」
「何がどうなったんだ」
裁判を見ていた村人達はそれを聞いて思わず色を失った。
「死ぬのは自分なのに」
「遂に狂っちまったのか」
彼等はヒソヒソと囁く。だが老婆は狂ってはいなかった。そ
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