暁 〜小説投稿サイト〜
剣の丘に花は咲く 
第十六章 ド・オルニエールの安穏
第二話 悲喜劇
[10/11]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
だっ! ―――なんて言ったら……」

 バツが悪そうに頭を掻きながら顔を逸らすレイナールやギムリの様子に、分が悪いと感じたのかギーシュが必死に凛に訴え掛け始めた。
 どうやら街での士郎の評判を知らないのか、大げさな身振り手振りで何処かの食堂での出来事を語るギーシュ。
 しかし間と場所が悪いことに、今ギーシュたちがいるのは劇場の出口の前。しかも未だ劇場から出た観客たちが興奮冷めやらぬ様子で劇の内容を語り合っていた。そんな中で、貴族と思わしき少年が、その目で見たように劇の主人公のモデルと噂の水精霊騎士隊隊長の話をしているのではないか。何時の間にかギーシュの周りには多くの聴衆が集まり、凛たちとギーシュたちを分断していた。凛の視線から逃れ緊張が解け、更には急に集まった観衆に囲まれる事により異様な興奮状態に陥ったのか、ギーシュが舞台俳優さながら過剰なリアクションで士郎の武勇譚を語り始めた。
 事態が大きくなり、どんどんと集まってくる野次馬に収拾がつかないと早々に判断した士郎たちが、見つかる前にとこっそりと逃げ出そうとした時であった。
 己が何か手を動かす度、話す度にどよめく観客に調子を際限なく高めさせたギーシュが、逃げ出す凛たちの中にローブで顔を隠した士郎に目ざとく気付くと指を突きつけた。

「そう―――そこにいる彼こそがっ! 稀代の英雄たる我が水精霊騎士隊隊長、エミヤ・シロウであるっ!!!」

 何処かトリップしたような恍惚とした口調でギーシュが声を上げると、一瞬周囲の音が一切消え去った後、地を揺るがすようなどよめきが湧き上がった。

「ま、まさかこの方が―――」
「うそっ! 本当にエーミヤ・シェロウッ!!?」

 一斉にギーシュに視線が集まる。
 数十もの視線が自身に向けられる快感に口元が緩むのを必死に押さえながら、ギーシュが厳かな様子でしっかりと頷いて見せると、観衆が一斉に士郎に群がり始めた。
 “魅惑の妖精”亭の騒ぎとは文字通り桁が違う騒ぎだ。
 もはや一種の暴動に近い。
 “魅惑の妖精”亭の時よりも酷い圧倒的な数の暴力を前に、どうすることも出来ない凛とルイズは顔を見合わせると溜め息を吐き天を仰ぎ。その横ではシエスタがうっとりとした顔をして。更にジェシカは半笑いの顔で肩を竦め、スカロンは口に手を当て面白そうな顔をしていた。
 「祝福を!」「お手を触らせてください!」と口々に叫びながらその身体に指先でもと押し合いながらも押し寄せる市民たちにもみくちゃにされる士郎が、流石に命の危機を感じ始めた時である。

「これは何の馬鹿騒ぎだッ!! ただちに解散しろッ!!」

 その騒ぎは天から落ちてきたかのような雷の如き怒声によって終止符が打たれることとなった。

「うるせぇッ!! お前らが引っ込んでろッ!!」

 叫び
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ