第十六章 ド・オルニエールの安穏
第二話 悲喜劇
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まさか―――」
「さあ、誰なのかしらね……」
ルイズがジト目で見上げると、スカロンはふいっと視線を逸した。
この劇でのヒロインは、その姿からとある人がモデルではないかと言われているが、そのモデルの名を口にするものはいない。流石に相手が相手だ、暗黙の了解というやつである。
ルイズは頭痛を耐えるように額に手を当てた。
「っ〜〜、ひぃ〜、っ、く、ぅ……はぁ……ふぅ、でも、どうやら人気があるのは女性だけじゃないみたいね」
笑いがやっと収まったのか、凛が目尻に滲んだ涙を指先で拭いながら目線をついっと劇場の二階にあるボックス席へと向けた。二階のボックス席はカーテンで仕切られている。大貴族が劇場を利用する際は、通常こういった席が利用される。
今も何処かの貴族が利用しているのか、閉められたカーテンの隙間から人の顔が覗いていた。
細めたルイズの目に、カーテンの奥で舞台を忌々しげな顔で見下ろす貴族の姿が見えた。例え救国の英雄だろうと、剣でメイジを倒す姿はメイジである貴族にとっては面白くはないのだろう。
「……まったく、人気者は辛いわね」
劇が終わると、興奮気味に劇の感想を言い合う観客たちに混じって、フードを深く被った士郎を囲むようにルイズたちが劇場から出てきた。士郎は全身の力が抜けたような何時ものキリッとした様子が欠片も感じられないダラリとした姿で足を引きずるように歩いている。ルイズたちはそんな士郎を引きずるようにして大通りへと出る、と―――。
「あれ? ギーシュ?」
大通りに出ると、予想外の人物の姿を目にしたルイズが驚きの声を上げる。
声を掛けられたギーシュが、マントを翻しながら振り返った。
「ん? ああルイズじゃないか。どうしたんだい、こんなところで」
「あ、ほんとだ。ルイズたちじゃないか、買い物でもしに来たのかい?」
早速シュヴァリエのマントを羽織ったギーシュが、わざとらしくマントを揺らしながらルイズたちの下へと歩いてくる。その後ろを、セイバーを除いたマリコルヌたち水精霊騎士隊の面々が付いてきている。
近づいてくるギーシュたちを前に足を止めたルイズの脇を通り、凛が前へと出た。
「あら? 偶然ね」
「っげぇ!!? 姐さんっ?!」
「どっ、どど、どうしてここにっ!?」
近づいていた足を止め、ドタバタと一気に後ろへと下がるギーシュたちに向け、凛は意地の悪い笑みを浮かべた。
「なによ。いちゃ悪いっていうの? へぇ……いい度胸してるじゃない」
「そんな、勘弁してください」
へこへこと頭を下げるギーシュ一行の姿に、ふんっと鼻を鳴らした凛が腕を組むと肩を竦めた。
「まあいいわ。で、なんでこんなところにい
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