第十六章 ド・オルニエールの安穏
第二話 悲喜劇
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全く堪えきれていない。
その姿からは何処にも優雅さは見つけられない。
今こそ家訓を実践すべきだろうと叫びたいが、そんな気力も沸きはしない
士郎はそんな隣りの人物の姿にますます目の前が暗くなるのを他所に、周囲の観客のボルテージは上がっていく。舞台で黒く肌を塗り、髪を白く染めた役者が剣を振るう度に敵が倒れ観客席からは猛烈な歓声が沸く。周囲を見れば、ほぼ全てが平民であり、更にいえば女性客の姿が目立った。
士郎が現実逃避気味に周囲の観察をしている間にも、勿論舞台は続く。
なにやらクライマックスが近いのか、舞台の上から歌姫を乗せた籠が下りてきた。
嫌な予感を感じる士郎。
耳を塞ぐための力も、もはやない。
光の灯らない瞳で見上げると、歌姫が歌い始めた。
剣士を称える歌を。
トリステインのゆうしゃ〜〜〜
わたしのゆうしゃ〜〜〜
どっと歓声が沸く中で、士郎は確かに聞いた。
「ぐふっ!! も、もうダメ!! ひぃ〜ひぃ〜ゆ、ゆうしゃ、わたしのゆうしゃってっ!!」と吹き出す女の声を。
歌が始まり更に激しさを増す舞台の殺陣であるが、どう見ても学芸会のレベルを超えていない。せめてもう少しまともだったならば、まだマシだっただろうと、両手で顔を覆う士郎の横で、スカロンが励ますように肩を叩いた。
「確かに批評家にはかなり酷評されているようだけど、これでも市民たちには人気があるのよ」
スカロンの言葉を肯定するように、観客たちから歓声が沸く。確かに観客の熱狂は本物である。舞台では主人公の役者が最後の敵を倒し、どこからともなく現れた派手なドレスを着た女の役者を抱きしめたところで幕が降りていた。
やっと拷問が終わると士郎は安堵の息を吐くが、どうやらまだ気が早かったようだ。
熱が収まらない観客が立ち上がり興奮に声を震わせながら、口々に男の名を叫び始めた。
「エーミヤっ! エーミヤ・シェロウッ!!」「剣士シェロウッ!!」と。
もう勘弁してくれと跪きそうになる士郎の身体を支えるスカロンが、ズレたフードを元に戻す。舞台を見るにあたり、スカロンが用意したのである。見た目が特徴的な士郎であるが、全身をフードですっぽりと被せれば流石に誰も気づくことはない。
この熱狂の中、正体がバレればただでは済まないだろう。
フードの中、完全に光が消えた目で顔を俯かせる士郎の視界の隅では、とうとう耐え切れなくなった凛が、腹を抱え込み痙攣していた。居た堪れなくなった士郎が、逃げるように顔を動かすと、頬を赤く染めたシエスタが幕が下りた舞台を見つめていた。
「すごい……本当に凄いですシロウさん。もう、信じられないほど格好良いです。ああ……わたしのシロウさんが遂にここまで……ああ、もう身体
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