第十六章 ド・オルニエールの安穏
第二話 悲喜劇
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ち一行が呆然と見つめていると、傍に寄ってきたスカロンが小さく咳払いをした。のろのろと凛たちの視線が向けられると、スカロンは食堂の壁のあちこちに貼られた広告の中で、特に大きく目立つ一枚を指差した。
スカロンが指差す広告は、タニアリージュ・ロワイヤル座で公演されている演劇のポスターであった。どうやら随分人気の演目らしく、延長決定等とでかでかと記載されている。
その演目を見て、ルイズの目と口を丸く大きく開く。
「……アルビオンの剣士って―――え? まさかっ!?」
ポスターには、剣を持った男が何やら見るからに悪と思わせるような格好をした兵士を相手に立ち向かっている姿が描かれている。描かれている男は何処をどう見ても似てはいないが、何やら浅黒い肌に、白い髪をしているため、多分間違いなくこれは……。
「この様子じゃ、もう今日は仕事にならなそうだし。どう? これから見に行ってみない?」
もはや獣の宴の場と化し、荒れ果てた『魅惑の妖精』亭の中を見渡したスカロンが困った顔をしながら提案した言葉を、女の群れから突き出た震える腕が沈んでいく姿を見つめていた凛たちは頷いた。
「例え七万の軍が相手であっても、私は決して逃げる事は致しません」
「ああ、勇者様。何故? どうしてそこまでしてあなたは……」
「私はこのトリステインを守りたいのです」
「死んでしまいます。それなのにどうしても戦うと言うのですか……何故、どうしてですか……」
「決まっています。トリステインには、あなたがいらっしゃるからです」
士郎は目の前が暗くなるのを感じていた。
眼前で繰り広げられる歌劇。
その内の一幕を、一組の役者が演じていた。
どうやらこの一幕はラブシーンであるようだが、この演目の主人公と思わしき男の役者が、何やらドレスと王冠を被った女の役者の手を取り見つめ合っている。士郎の心労を他所に、話はどんどんと進んでいく。場面は代わり、今度は剣を握った男が、竜の着ぐるみや、貴族の格好をした役者たち相手に立ち回り始めた。
「この我がいる限りっ! トリステインは負けることはないっ! さあっ! 我を倒せる者は何処にいるっ! 我こそは女王陛下の剣たる騎士っ! エーミヤ・シェロウであるぞッ!!」
エーミヤって、と全身から力が抜け、膝を着きそうになる士郎の視界の隅で、腹を抱え歯を食いしばり笑いを堪えている女の姿が映る。
必死に我慢しようと顔を伏せ身体を抱きしめているが、長い黒髪の隙間から見える口元は歪み、目尻に涙が滲んでいるのが見える。時折痙攣を起こすように身体をびくつかせるだけでなく、「ひっ、ぅ、っく、えーみや、えーみやってっ―――! ぶくふっ!」と喉の奥から悲鳴じみた声が漏れ聞こえてもくる。
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