第十六章 ド・オルニエールの安穏
第二話 悲喜劇
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視線を追っていくと、一人の人物に行き当たった。
「士郎、あんた何やらかしたのよ?」
「何でそこで俺に話を向ける?」
「あんたには色々と前科があるからね。で、身に覚えは?」
「ない」
「あんたねぇ―――」
きっぱりと言い切る士郎を物凄く疑わしい目で見ていた凛が何やら言おうと口を開いたが、不意に見物客の中から子供を抱えた一人の中年女性が飛び出してくるのを見て口を閉じた。
「その、何か?」
「あ、あの……あなた様はその、もしや陛下直属の水精霊騎士隊隊長のシェロウさまではないでしょうか?」
「シェロウ……は、はぁ……確かに水精霊騎士隊の隊長はしていますが、名前はシェロウではなく―――」
士郎がそう口にすると、店の外で壁のように集まっていた見物客から響めきが上がった。そのどよめきは想像以上に大きく、ルイズたちは思わず腰を浮かしかけたほどであった。
「あ、握手―――握手をしてください。あなたにお会い出来て光栄です。それと、ぜひ、この子の名付け親に―――」
その女性を切っ掛けに、遠巻きに見ていた群衆が一気に士郎へと押し寄せてきた。
それこそ老若男女問わず様々な年齢職業の者たちが、士郎の傍へと駆け寄り口々に士郎の活躍ぶりをまるで自分で見てきたかのように誉めそやしだす。
「アルビオンでの退却戦っ! 何万もの兵にたった一人で立ち向かうなんてっ!!」
「リネン川の百人抜き感動しましたっ! 魔法を使わずたった一本の剣で貴族を倒すなんてっ!」
「あなた様の活躍を知らぬものは、このトリステインにいませんよっ!」
突然の出来事に困惑し立ち尽くす士郎は、雲霞の如く押し寄せる人の群れに取り込まれ身動きが取れないでいた。集まってきた人の多くは女子供であり、無理に離れようとすれば怪我をさせてしまうかもしれないことから、掻き分けて脱出することも憚れ、士郎はどうすることもできなかった。士郎が抵抗しない事にヒートアップした群衆は、話すだけでは飽き足りなくなったのか、手を伸ばし指先だけでもと触れようと手を伸ばし始める。ついには士郎の腕を誰かが掴み、若い女の集団の中に引っ張り込まれてしまった。
そして……。
「す、凄く硬い……」
「わっ、まるで鉄ね」
「ちょ―――ま、やめ―――」
「まっ!? 流石英雄ね。ここも立派」
「本当……旦那とは比べものにならないわ……」
「な―――ッ?! どっ、何処を触って―――っ!?」
肉の海に沈んでいく士郎。
溺れるように伸ばした腕が暴れているが、取り囲む女衆を止める事は無理である。
「……一体どういう状況なのよ?」
「これは、何がどうして……」
「すごい……人気、です、ね」
儚く女の群れに沈んでいく士郎の姿を、取り残された凛た
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