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剣の丘に花は咲く 
第十六章 ド・オルニエールの安穏
第二話 悲喜劇
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 ロシュローの森を過ぎた一角。
 トリステイン王国首都トリスタニアの郊外に位置するそこで、一人の男が立ち尽くしていた。
 彼はトリスタニアで貴族や裕福な商家を相手に不動産業を営むヴェイユという男であった。男が取り扱う不動産は、爵位が付いた“領地”ではなく、資金があれば誰でも購入する事が出来る“土地”であった。とは言え、土地は土地である。小さな土地であっても、購入するにはかなりの金額が必要である。そのためそうそう購入者が現れるわけではない。
 そんな男の下に、本日一組の客がふらりと現れた。
 女三人と男一人の良くわからない組み合わせの客であった。
 別に客がどんな者であっても構わないヴェイユであったが、客の一人の正体を知った時、彼は思わず小躍りしてしまいそうであった。何故ならその客というのが、この国でも三本の指に入る程の大貴族であったからだ。
 もし、こんな大貴族を客に持ったとなれば、その評判だけでも客を呼べる。
 ヴェイユは並々ならぬ意気込みで色々と物件を紹介した―――のだが……。
 
「……全然駄目ね。次は何処?」
「ちょっとあなたまともに見なさいよっ!! あんた全く屋敷を見てないじゃないっ! もう少し時間を掛けて判断したらどうなのよっ!」
「あ、あの〜ミス・トオサカ。何故ここが駄目なんですか? ここ、今までで一番良いと思うのですが……その、キッチンも広くて綺麗ですし」

 ルイズとシエスタが口々に言うが、凛は全く聞く耳を持たない様子でヴェイユに向かって歩いていく。
 近づいてくる凛の姿に、ヴェイユは冷汗を流しながら何もかも投げ出して座り込みたくなっていた。最初は大貴族であるラ・ヴァリエール家の三女が相手かと思ったが、蓋を開ければ実は赤いトレンチコートを着た黒髪の女が相手だと判明した。それでも大貴族と一緒に来たとなれば、それなりの地位にあるものと考えこれまで色々と物件を紹介したのはいいが、紹介する度に大貴族の三女と口喧嘩をする始末。その何時爆発するかわからない殺気の嵐の只中で平然と出来るほど、ヴェイユは修羅場には慣れてはいなかった。
 ヴェイユがこの現状から抜け出したいと思うのは遅くはなかった。
 一刻も早く終わらせよう。
 その一心でヴェイユは秘蔵の物件を紹介したのだが、どれもこれも屋敷をまともに見ることなく切り捨てられる始末であった。
 そして、今もまた、ヴェイユが持つ物件の中でも最上級の屋敷を赤いトレンチコートを着た女―――凛が切り捨てた。

「はあ、最初から言ってるでしょ。重要なのは土地よ。家なんて後からどうとでもなるわ」
「土地って言うけど、土地としてもあなたさっきから景色なんてまともに見てないじゃないっ!」
「そこじゃないわよ……っていうか、何であなたついてきてるの? ついてくるのは士郎だけでいいって
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