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アニー
6部分:第六話
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「だが今回のような件はおそらく専門外だろう。彼等は悪魔や悪霊がその対象だ」
「ですからアニーは」
「言い切れるかね?」
「勿論ですよ」
 彼は答えた。
「車が一人でに動くことなんて有り得ないですし彼女は傷一つないんですから」
「それは有力な証拠だな」
「でしょう?アニーの無実はこれで証明できます」
 ヘンリーの運転は慎重である。今まで事故一つ起こしたことはない。アニーも買った時のまま綺麗なものである。若し人をはねたり轢いたりしたならば何処かに傷があるだろう。そして血でも付いている筈だ。だがそんなものは今まで何処にもなかったのである。
「おわかりになられたでしょうか」
「そうだな」
 所長はとりあえずは頷いてみせた。
「アニーが普通の車だったらの場合は」
「まだ疑っておられるのですか」
「ヘンリー君、若し彼女が無実だった場合責任は私が取ろう」
 身を前に乗り出してきた。
「どういうことですか?」
 身を乗り出してきた所長に応えて彼も身を前に出して。二人は鼻が着かんばかりに顔を近付け合った。
「一度車に傷でもつけてくれ」
「アニーに」
「そうだ。いいかな」
「そんなに疑っているのですか」
「若しもだ。もしそれで何もなかったら車の修理費は私が全額出す。それでいいかな」
「悪い条件ではないですね」
 むしろかなりいい。傷を付けるにしても軽いものでいいと思った。それで疑いが晴れるのならば安いものだ。あまりにも何時になくオカルティックな所長にも嫌気が差していたところだ。彼はそれに頷いた。
「いいでしょう。やってみます」
「よし」
 所長はそれを聞いて大きく頷いた。
「では早速やってもらおう。いいね」
「わかりました」
 それで所長の気が済むのなら早い方がいい。彼は家に帰るとこっそりとコインでアニーの後ろに傷を付けた。綺麗なボディに傷が付くのはいたたまれなかったが。
(済まないな)
 こっそりと謝罪する。これでアニーの嫌疑は晴れた、そう思った。そもそも車が何をするのだろうと思った。彼は所長に対して疑問を持ちはじめていた。
 だがその疑問は次の瞬間に完全に消えた。同時にアニーの傷も。両方共瞬く間に消えてしまったのだ。
「これは・・・・・・」
 流石に呆然とした。今つけたばかりの傷がすうっと消えてしまったのだ。跡形もなく消えてしまった。さしものヘンリーもそれを見て我を失ってしまった。
「・・・・・・・・・」
 そのまま自宅の駐車場から姿を消した。今自分自身で見たことが信じられなかった。彼は一人考えても仕方のないことを考えながらその夜を過ごした。結論はもう出ていた。それを自分自身に言い聞かせるだけであった。
「そうか」
 次の日の朝所長はそれを聞いて全てを悟ったように頷いた。
「では間違いないな
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