暁 〜小説投稿サイト〜
アニー
4部分:第四話
[3/4]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
た。黒縁の眼鏡もかけている。
「君は」
「貴方の同業者よ」
 彼女は笑ってそう答えた。
「キャスリン。キャシーって呼ばれてるわ。ニューヨークでやっているの」
「そのニューヨークの弁護士さんがどうしてここに?」
「たまたま出張でね。ここでちょっとした訴訟の弁護をしていたのよ」
「へえ」
 アメリカは訴訟社会とさえ呼ばれている。それを専門に取り扱う弁護士も多い。あまりにも訴訟が多いので訴訟産業とさえ皮肉られている程である。
「それが終わって傍聴席で見ていたのだけれど。上手くやったわね」
「上手くやるのが僕達の仕事じゃないか」
 彼は笑ってそう答えた。
「そうじゃなきゃ食べていけなくなるよ」
「面白いことを言うわね」
「君だって同じだろ」
「その通りよ」
 彼女はそれを認めた。
「どうやら貴方とは色々とお話して楽しいことがるようね」
「告白かい?」
「そんなところよ。どう、この後カフェでも」
「ニューヨーカーは積極的だね」
 今度はボストンの者としてそれに応えた。
「こんな田舎町じゃ考えられないよ」
「ニューヨーカーはね、何でも積極的なのが信条なのよ」
 眼鏡の奥の青い目を光らせてそう言う。
「じゃあ決まりね。仕事が終わったらこの裁判所の前で」
「もう少しムードのある場所がいいんだけれど」
「じゃあ球場の前で。いいかしら」
「今日はヤンキースは負けるよ」
 彼はそれを聞いてニヤリと笑った。
「レッドソックスにね」
「強気ね」
「今のレッドソックスには何処も勝てはしないさ」
 今連勝街道をひた走っているところであった。こうなった時のレッドソックスは誰にも止められないのである。昔から熱狂的なファンが多い理由はそこにあった。色々と不運なことも起こったりする球団であるがそのドラマティックさが印象的な球団なのである。
「あら、ヤンキースだって今調子がいいわよ」
 どうやらキャシーはヤンキースのファンらしい。ヘンリーはそれを感じて内心ムッとした。
「今シーズンは優勝かしらね」
「それは今ここで僕達が言ってもはじまらないね」
 彼は憮然としてそう答えた。
「球場でそれははっきりするよ。レッドソックスが勝ってね」
「じゃあ球場でそれをはっきりさせましょう」
「望むところ」
 こうして彼は仕事の後キャシーと球場でデートをすることになった。デートといっても彼は不機嫌であった。何しろ相手は憎きヤンキースのファンなのであるから。
「なあアニー」
 彼は車に乗りながらアニーに語り掛けた。
「ヤンキースってのはなあ、あんなのは野球じゃないんだよ」
 彼のヤンキース嫌いは相当なものである。それを裏返すとそのままレッドソックスへの愛情となる。同じリーグ、地区にいるだけに憎しみは尚更であった。
「思いきり
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ