File.1 「山桜想う頃に…」
\ 不明
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」
その兼造の言葉を聞き、謙継はやれやれと言った風に首を振り、謙之助は苦笑しながら中へと入って行った。
「何だよ!何で何も言わずに行くんだよ!」
兼造はブツブツと何か言いながら、小走りに二人の後を追い掛けたのだった。
また不意に視界が変化した。同じ屋敷だろうことは分かるが、少し違って見えたのは…気のせいだろうか?
「夜分に失礼致します。染野兼吉と申しますが、弘吉殿は居られますかな?」
暫く見ていると、門から男が現れて言った。現れた男は、堀川家の使用人である染野だった。どこかへ赴いていたようで、染野は旅の格好をしていた。その帰りに立ち寄ったと言う風だ。
「おぉ、よう参られた。文は受け取っておるが、随分と早かったのぅ。」
染野の声に、奥から初老の男が出てきて言った。この屋敷の主らしい。
「いや、山越えが順調でしたのでな。して、例のことは何か掴めましたかな?」
「その話は中で…。先ずは夕餉の支度をさせる故、上がって寛ぎなされい。」
「それは有難い。この辺りは店仕舞いが早くて困っておったところですからなぁ。」
そう言って染野は履き物を脱ぎ、初老の男と世間話をしながら奥へと入って行ったのだった。私の視界もその後に続く様に奥へと向かい、十二畳程の部屋へと入った。
「しかし…この件に、この畑名家の力を借りることになろうとは…。何分、急を要する事態故、先に文にて失礼致したことをお詫び申し上げる。」
「いや、それは構わん。此方はただの分家じゃし、そう畏まる必要もあるまいて。そなたとは知らぬ仲でもなし。」
「そう申して頂けると、此方も幾分気が休まりますな。」
畑名…確か、最後まで残っていた堀川の分家がその名だったはず。では、あの謙之助と呼ばれていた男がハルの子で、それを畑名家が養子にしたってことか…?
私は周囲を気にして見回してみたが、使用人以外は全く見ていない。妻や子供がいてもよさそうなものだが、その気配は全くないのだ。
察するに、この初老の男は独り身なのだ。なぜそうなのかは分からないが、それが理由で謙之助を養子として受け入れたのだろう。
「妻が死んで三十年になるかのぅ…。もし、わしに子があったなら、また違った道があったやも知れん…。」
この言葉は私の疑問を払拭した。男はどこか寂しげに、障子戸から見える月を見た。亡くなった妻を偲んでいるのかも知れない。
「なにを仰られる。いかな養父といえ、兼之介は貴殿を慕っておるではないか。確かに、血の繋がりは無いにせよ、思いというは受け継がるるもの。」
「そうだのぅ…。じゃがそれ故に、本家は分家であるこの畑名家を監視しておるのじゃから、謙之助は辛い立場じゃろうよ…。」
監視…?たかが一分家であり、それも大して富も無さそうなこの家をか?ここを何故監視する必要があったのか?私が
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