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相模英二幻想事件簿
File.1 「山桜想う頃に…」
\ 不明
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わね。でしたら、使われない北の客間の畳を…。私が血を拭き取り、障子を張り替えます。旦那様は畳を…。」
 そう言われた男は頷くや、直ぐに部屋を出た。トヨは目に涙を浮かべながらも、血痕を拭き取るものを取りに部屋を出たのだった。

「正吉…例の兄弟に関係があるのか?ではこの男は…まさか栄吉…?」
 私はそう呟くが、無論それに答えてくれる者はいない。目の前に広がる記憶も答えてはくれず、一瞬にして掻き消えてしまった。だが、再び新たな映像が浮かび上がり、今度は淡い三日月の頼りない光に照らされ、荷車を引く染野の姿が映し出された。

「お前も欲を出さなけりゃ、死なずに済んだものを…。本家の正妻に、何でなれるなんて考えたんだ…ハルよ…。」
 染野は一人呟きながら、主から命を受けた場所へと向かっていた。彼が向かう先を見ると、大きな影のようなものが見えた。
 櫻華山だ。月が反対から照らすため、まるで巨大な墓標のようにも見える…。
 暫くすると染野は櫻華山へと着き、そこへハルの亡骸を担いで登っていった。月明かりを頼りに半ばまで来たとき、そこにポッカリと穴が開いている場所に出た。染野は亡骸を一旦地へと横たえて、それに向かって手を合わせた。そうして後、染野は亡骸を穴へと投げ入れたのだった。見ると、その穴の傍らには小さな社があり、どうやら古い墓のようだと悟った。恐らく…正式に埋葬出来なかった者達の行き着く場所なのだろう…。
「ハル…今度は良い時代に産まれるんだぞ。」
 染野はそう呟いて再び合掌した後、逃げるように山を下ったのだった。
 そこで再び視界が切り替わり、今度はどうやら堀内家ではなく、別の屋敷の門の前だった。
「謙継様、この様な所へ何か御用でしょうか?兼造様までご一緒とは…。」
「謙之介、兄と呼んでほしいと言ったじゃないか…。まぁ、これといった用事ではないが、兼造が餅をついたからお前にもとしつこくてなぁ。」
「兄者、それは言わぬと言ったじゃないか!全く…これ、柔らかいうちに食わしたかったんだ。」
 兼造と言われた男は、手にしていたものをバツが悪そうに目の前の男へと差し出した。どうやら例の兄弟の話らしい…。謙継という男、どこかで見たことがあるような気がするが…。
「わざわざお持ち下さったのですか?有り難う御座います!折角お越し下さったのですから、どうかお寄りになって下さい。謙継兄上、兼造兄上。」
「そうか…兼造、少し上がらせてもらうとするか。」
「そうですね。でも…謙之助、その丁寧な口調は止めてくれ。どうも俺の性には合わん。名も皆似たり寄ったりだし、母が違えど兄弟に変わりはないからな。いや…お前だったら、血が繋がらずとも兄弟だと俺は思うだろうが。」
「兼造…それでは兄弟でなく、寧ろ親友と呼ぶべきではないか?」
「どっちも似たようなもんだろ?
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