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相模英二幻想事件簿
File.1 「山桜想う頃に…」
Y 4.11.PM7:48
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星山って女からだった。最初から声が上擦っていて、聞き取るのに苦労した。」
 警部は溜め息を一つ溢すと、再び内容を語り始めた。
 仲居頭の星山が見たものとは、仲居の一人、藤井金江という女性の死体だったのだ。警部はそれを聞くなり、待機していた警官を連れて旅館へと行ったのだが、それを見た松山警部も警官も直ぐ様外へ飛び出して吐いてしまったという…。
「ありゃ…有り得ねぇよ…。あの星山って女、あれ見てよく失神しなかったと思う…。」
 思い出すのも嫌だっただろうが、松山警部は細部に至るまで話てくれた。
 まず、その部屋は血の海だったという。それだけでもゾッとするが、その後が酷かった…。部屋へ入って明かりを点けるや、そこへ入った全員、まずは叫びそうになった。そこには確かに仲居はいたのだが…首が胴体と切り離されていたのだ。
 いや…これには語弊があるかも知れない。実際は、「捩斬られ」ていたのだ。その首はご丁寧にも、彼女の胸の上に置かれ、明かりの点いた瞬間に直ぐ様目に入ったのだ。その話を聞いて背筋が凍り付いたのは、恐らく私だけじゃないだろう…。
「そんな凄惨な現場にな…あったんだよ…。」
「何がですか…?」
「桜だよ…。お前達に付いてたのと同じ…小さな桜の花弁が!」
 その部屋には、まんべんなく桜の花弁が撒き散らされていたそうだ。その上、遺体を検死官が調べようとしたとき、検死官さえ気を喪いそうになった。なんと…首のあった場所に、代わりだと言わんばかりに桜の枝が差し込まれいたのだ…。
「こりゃ…人間の出来ることじゃねぇよ…。尋常を逸してる…。俺は切断された遺体も見たこたぁあるが、あんな捩斬られるようなもんは見たことがない…。」
 思い出したためか、警部は真っ青な顔で俯いている。そんな警部に、私は一つ問った。
「警部。部屋にあったのは…山桜でしたか?」
「お前…何か知ってるのか?確かに、あれは山桜だったが…。」
 その返答を聞き、私は藤崎と顔を見合わせた。まさか…ことがこれ程大きくなるなんて、誰も予想すら出来なかった。やはり…これは浴場で会ったあの男性にも関係している。私はそう考えて藤崎に言うと、藤崎は眉を潜め腕組しながら答えた。
「あれか?話たとして…大した意味は無いと思うが…。」
 私達が話すべきかどうか考えていると、そこへ松山警部が割って入ってきた。
「お前ら、何か知ってるんだな?」
 そう言われようにも、何をどう話したものか分からない。どこから切り出したとしても、理解してもらえそうにないものばかりだからな…。今、この場で話したとして…誰がそれを理解して解決策を導き出せるものだろう?
 だがしかし、それを話さずして再び犠牲者を出すことだけは避けたいのだが…。
「俺から話すさ。」
 思案している私を見て、藤崎が先に口を開いた。

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