File.1 「山桜想う頃に…」
U 同日 PM1:48
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りの資産を有していたに違いない。いくら貴族でも、当時の貴族の大半は貧乏だったに違いないのだ。それを考えると、宗彌がどれ程悩んだかが窺える。しかも、山桜を増やす一件では、栄吉からかなりの褒賞を受け取っていた筈だし、その息子を初めから拒否することは出来なかっただろう。別人であったなら、きっと直ぐ様断ったはずだ。
「当時の山下家は、かなりの資産家だったと聞いています。多くの権力者とも面識があったようですし、貴族である堀川も、うっかりしたことは言えなかったようですね。でも、兼吉はそれを承知の上で、三年も堀川の家を訪れては娘に想いを伝えていたそうです。それで娘も根負けして、兼吉を受け入れたみたいですよ。まぁ…それでも、二人の間には男子二人、女子三人の子供を授かってますから、強ち悪い結婚だったとは言えないかも知れませんねぇ。」
「そりゃ…三年も想い続けてくれたんだったら、信じて良いかなって思うんじゃない?この人ならって。」
亜希は一人で何か納得しているようだ。だが、藤崎は何か腑に落ちないと言った風に口を開いた。
「でもさ、三年も返答を拒み続けたんだったら、さすがに諦めんのが普通じゃないか?」
「京…お前なぁ…。」
私達が憶測し合っている前で、桜庭さんは苦笑いしているしかなかった…。ま、この話はここで切り上げた方が良さそうだと考えた時、ふいに桜庭さんはその後のことについて語り始めた。
「まぁ、その話については置いておくことにしまして…。二人の子供の話も伝わっているんです。実は、家を継いだのは次男なんです。長男はこの櫻華山で事故死したため、次男が継ぐことになったんですよ。ですが…その長男の死は、次男が仕組んだんじゃないかって話もあるくらいで…。」
何だかキナ臭い話になってきたなぁ…。まぁ、それなりの資産家なんだから、そういうことがあっても不思議じゃないが…。
「まさか…長男が事故死した場所って…」
「いやいや、その場所はこの山の裏側です。そこにも弔いのために、何本も山桜が植えられています。一応、代々の墓所もこの櫻華山にありますから。」
「え…代々の墓まで…。」
私は何だか嫌な感じがしたが、藤崎は笑いながら私に言った。
「別に何かあるわけじゃなし、とっくの昔に終わったことだって。」
その藤崎の言葉に、亜希も「そうよ!楽しまなくっちゃね!」と言って笑っていた。
確かに…こんなに美しい景色を前にして、楽しまなくては損と言うものだな。桜庭さんも「こんな話、申し訳ありませんでした。」と言って、亜希や藤崎に酒を勧めていた。
だが…こうしている間にも、旅館では小さな種火が燻り始めていたのだ。桜庭さんが語ってくれた昔話が、遠い歳月を飛び越えて、この現代へと刄を向け始めていたのだ。
まさか…自分達がその渦中へと巻き込まれてしまうとは、この
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