File.1 「山桜想う頃に…」
U 同日 PM1:48
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「英二…。お前、さては忘れてたな?」
私の反応を察知してか、藤崎はニタリと笑みを溢しながら言った。なんて嫌な表情だ…。
「ほっとけ!京も同じだろうが!…で、桜庭さん。この山桜ですが、どうして増やしたかったんです?別に他の根付きやすい品種でも良かったと思うんですけど。」
私がそう問うと、桜庭さんは少しずつ話始めた。
「実は、この山桜を増やす試みは、没落以前から行われていたようなんです。江戸後期…とは言っても明治に入る頃ですが、当時の主がこの山を古文書にあるような山にしたいと願ったのが始まりなようです。」
桜庭さんは私達に酒を勧めながら話してくれたが、要約して説明しておこう。
彼の話によると、当時の主、栄吉が蔵に保管されていた古文書を整理していた時、ふと山桜の話が目にとまったと言う。そこには山が桜に覆われて、それは美しい光景だったと記されていたのだが、その頃には既に、肝心の山桜は老木三本を残すのみだった。栄吉は何とかそこから増やせないかと、手紙を書いて各地の植木職人に送って協力を仰いだ。それに答え、四人の職人が栄吉の元へと駆けつけたが、その中の一人に堀川宗彌と言う人物がいた。
この人物、実は貴族の出身であり、趣味が高じて植木職人の肩書きを得たのだった。その堀川が老木から八本増やすことに成功し、喜んだ栄吉は、この山に名前をつけることを堀川に任せたのだと言う。その名が今に伝わる“櫻華山"なのだ。
その後のことだが、堀川は自分の娘を栄吉の息子に嫁がせ、当時は姓を山下と名乗っていた栄吉に、自分と同じ堀川の姓を名乗ることを許したとか…。なぜ宗彌が自分の娘を位の低い家へ嫁がせたかは謎で、どの古文書にもその経緯は記されていなかった。そもそも、栄吉と堀川宗彌はそこまで親密な関係ではなかったようで、山桜を増やして以降、何年も顔を合わせてすらないらしいのだ。なので、この話は後世に作られた話である可能性が高いという。
だが、元来山下と名乗っていたものが、途中から堀川姓に変わったことは事実だ。しかし、それは栄吉の死後のことで、栄吉自身には直接関係が無い。
「それでですね、今から十年ほど前に見つかった古文書によると、次の当主になった息子の兼吉が堀川宗彌の娘に一目惚れしたようで、何回も堀川の屋敷を訪ねていたことが書かれていたんです。」
「何回も…ですか?その娘は、兼吉のことを嫌っていたんじゃ…?」
桜庭さんの話に、ふと亜希がそう口を挟んだ。
「そうみたいですね。でも、そう思っていても直接的には言えなかったようで、父である宗彌も頭を抱えていたみたいなんです。」
「そんなの…初めから断ってれば済むんじゃないのか?」
今度は藤崎が口を開いた。ま、確かにそうなんだが、相手が悪かったんだろうと私は思った。何せ、ここ一帯を所有していた山下家は、かな
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