羽と華を詠み、星は独り輝く
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内、ほんの僅かに切なさが湧く。
――この肩に、この腰に、この腕に、この頬に……昼間は彼が触れていたのだ。
順々になぞって行く。触れた箇所をなぞればあの大きな手の温もりが甦る。きゅう、と胸が締め付けられた。
思い出せば思い出す程に募る想い。厄介な病に掛かったモノだと苦笑しながら、彼女は唇に指を当てた。
朱の差した頬と悩ましげに寄せられた眉が彼女の悔しさ表す。惜しいことをした。もう少し、もう少しで……と。
「荀攸も恋敵になった。きっとあの時一緒に居た少女もそうなのだろう。曹操軍は百合の園だが他にもいる、あの女たらしなら絶対に。雛里だけでも強敵だというのに……まったく……」
好かれる理由を知っているからそれ以上の悪態は付かない。自分勝手で意地っ張りで弱くて強い彼のことを知れば、きっと誰かしらは慕うだろうと分かっていた。
悪態の代わりとばかりに苦笑を零して、また彼女は上機嫌に歌を歌い始めた。
幾分、丁度いい時機で事務仕事も終わったらしく、黒髪の美女がゆらりと湯煙の中から現れた。
「ふぅ……機嫌がいいな、星?」
しとやかに、静かな所作で湯船に浸かった愛紗。疑問を向ける声は安息のため息の後に。
「ああ、いいとも。今日は風呂を出たら酒をたらふく飲むからな」
ただでさえ大酒飲みな星のたらふくとは如何なモノか……片眉を上げた愛紗がジトリと見つめた。
「……明日の仕事に支障は?」
「無い。あるはずがない。此れから数日……もしくは数十日、私の仕事に支障が出ることは無い。その代わり酒を自由に飲ませて貰うが」
またわけの分からないことを、と呟き、白磁の腕で愛紗は身体をなぞる。傷の一つ一つを確認するように。
あまり無茶な戦はしていない。傷もそれほど目立つモノは無い。小さな傷ばかりだ。大きな傷と言えば、普段は服で隠れている腹の辺り、飛将軍と戦った時に付いたモノくらい。
此れは誰かの真似。戦の度にキズをなぞっていたその意味を知っているが、愛紗と誰かは部隊の戦い方が違い過ぎた。だから此れは気慰め程度。少しでも彼の想いを知りたいが為の。
じ……とそんな愛紗の行いを見ていた星は空を見上げてため息を吐いた。
「覚悟しておけ、愛紗。気をしっかりと持たねば喰われるぞ」
「……ああ、そうだな。戦うのなら分かったつもりになるのが一番ダメだ」
「いや、いやいやいや……違うぞ」
何がだ、と言う前に星と視線が絡んだ。
真剣な眼差しが伝えるのは何か、愛紗には読み取れない。分かるのは、負の感情は無く、友として忠告を伝えるということ。
「風呂から上がってからか、明日か……桃香殿に尋ねるがいい。必ずや……“私達劉備軍”にとって大変なことが起きる」
「なんのこと、だ?」
「さてな
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